HOME > 研究員のウンチク > 【2008年9月号】生薬とフードマイレージ 〜生薬にも当てはまるキーワード〜


生薬とフードマイレージ 〜生薬にも当てはまるキーワード〜



最近、信州の山奥に住んでいる私も「フードマイレージ」という言葉を良く耳にするようになりました。この「フードマイレージ」という考え方は、食料の輸送に伴う二酸化炭素(CO2)の排出量を減らし、地球温暖化の防止に役立てる目的で取り入れられたものですが、食品のみならず生薬にも当てはまるキーワードなのです。

ご存知の方も多いと思いますが、国内で使用されている生薬の大半は中国からの輸入品です。生薬は乾燥されているので生(ナマ)の時より軽くなっていますが、遠方からの輸送には少なからず二酸化炭素の排出をともなってしまいます。

日本では昔から生薬の供給を中国からの輸入に頼っていたわけではなく、以前は国内にも伝統的な生薬の栽培地が幾つもあり、良質の生薬が生産されていました。しかし、人件費の高騰や円高が進んだため中国から安い生薬が大量に輸入されるようになり、国内の生薬栽培は窮地に追い込まれてしまいました。
ところが、ここにきて生薬の輸出大国である中国では、急激な経済成長にともなう自然環境の破壊による野生の薬用植物の減少や、農村部の疲弊による栽培地の縮小が起きています。また、中国国内の生薬の使用量も増えるなどして、これまでのような中国からの生薬の輸入ができなくなることが危惧されています。

このような中国の変化を受け、日本国内で生産できるものは国内で栽培しようという動きも出始めています。
しかし、当帰、柴胡、黄連、朝鮮人参など僅かな種類が国内栽培されているだけで、まだまだ十分な動きとはなっていないのが現状です。

弊社の「養命酒」の原料生薬もその多くは中国からの輸入でまかなわれていますが、益母草(メハジキ)と烏樟(クロモジ)については国内産のものを使用しています。
益母草は長野県内で、烏樟は長野県と東北地域で栽培・生産されており、養命酒を製造している駒ヶ根工場にも比較的近い場所からの供給なので「生薬マイレージ?」は小さく、環境にもやさしい原料生薬と言えます。


益母草(メハジキ)の栽培風景 6月上旬
益母草(メハジキ)の栽培風景 6月上旬

益母草(メハジキ)の栽培風景7月中旬
益母草(メハジキ)の栽培風景7月中旬

益母草(メハジキ)の花
益母草(メハジキ)の花

烏樟(クロモジ)自生地\n紅葉している木がクロモジです
烏樟(クロモジ)自生地
紅葉している木がクロモジです


出荷を待つ烏樟(クロモジ)
出荷を待つ烏樟(クロモジ)


益母草の栽培風景については日本漢方生薬製剤協会のHP の「日本の薬草栽培風景」に動画が掲載されていますので興味のある方はぜひ一度訪ねてみて下さい。

国内での生薬栽培は、「生薬マイレージ」などのエコ面の他にも、“安定した安全な生薬の供給”にもつながりとても好ましいと思います。国内栽培の普及には、価格面や栽培地の確保など解決が困難な問題も多くありますが、日本の風土にあった生薬の栽培が少しでも広がり、カラダにも地球にも優しい生薬が身近で手に入るような自然・社会環境になれば、私たちの生活もより健全で健康的になるのではないでしょうか。


■石塚康弘 (養命酒中央研究所・商品開発グループ チームリーダー)