日本人はなぜ胃腸が弱いの?
目からウロコ!消化管の新常識
日本人は胃腸を含む消化管の治療を受けている人が約1000万人いるといわれており、胃腸の不調を感じている人が少なくありません。今月は、消化管や予防医学の名医・奥田昌子先生に、知っているようで意外と知らない「胃腸と食習慣の新常識」について教えていただきます。
- お話を伺った先生
- 奥田 昌子(おくだ まさこ)先生
京都大学大学院医学研究科修了。内科医。京都大学博士(医学)。愛知県出身。博士課程にて基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何か考える中で予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関で20万人以上の診察にあたる。大手メーカー産業医を兼務。著書に『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』(講談社)、『実はこんなに間違っていた!日本人の健康法』(大和書房)。『内臓脂肪を最速で落とす』『胃腸を最速で強くする』(共に幻冬舎)、『最速お腹やせレシピ』(マガジンハウス)など人気著書、監修書多数。
消化管の名医に聞く!
日本人はどうして胃腸が弱いの?
ドキュメンタリー映画「いただきます」より
消化管の病気に悩む日本人が約1000万人!
厚生労働省の「平成29年患者調査」によると、胃腸をはじめとする消化管の病気で治療を受けている人の総数は約1000万人にのぼると推定されています。さらに、日本人のがんで最も多いのも消化管のがんです。消化管の病気は心臓や血管の疾患や心の病と並ぶ、現代日本を代表する病気といえます。
日本人は内臓脂肪が付きやすい!
内臓の周りにつく「内臓脂肪」は、生活習慣病の元になる「メタボ(メタボリックシンドローム)」の元凶になるだけでなく、胃腸を圧迫することで、便秘や胃もたれの原因にもなります。残念ながら、日本人は欧米人よりも内臓脂肪が遺伝的につきやすい体質です。脂肪の少ない穀物や魚介を中心に食べてきた日本人は、肉食中心の欧米人より、皮下に脂肪を蓄える能力が劣っており、内臓を支えるお腹の筋力も弱いため、内臓脂肪を増やして内臓を支える体質になったと考えられています。
さらに、日本人は内臓脂肪を燃やす働きのある善玉物質「アディポネクチン」の分泌量が、欧米人よりも遺伝的に少ないため、内臓脂肪がたまりやすいという弱点もあります。
日本人の消化管はカフェインやアルコールに弱い
日本人をはじめアジア人は、カフェインが体質的に合わない遺伝子を持つ人が半数近くもいるといわれています。「コーヒーを飲むと、胃の調子が悪くなる」という人は、カフェインが合わない体質の可能性があります。カフェインはコーヒーだけでなく、紅茶や緑茶、ウーロン茶をはじめ、エナジードリンクや高カカオチョコレートなどにもたくさん含まれているので、コーヒーが合わないと感じる人は気をつけましょう。
また、日本人は遺伝的にアルコールを肝臓で分解する力が弱い人が4割強もいるのに対して、ヨーロッパ系とアフリカ系の人にはほぼ皆無です。タイやフィリピンなど東南アジア系の人でも1割程度しかいません。食前にお酒を少し飲むと、消化管の血流がよくなって食事の消化吸収に役立つというメリットもありますが、あくまでも適量を守ることが大切です。
意外と知らない!
胃腸の「新常識10」
私たちは毎日、消化管のお世話になっていますが、自分の消化管について意外と理解していない人が多いのではないでしょうか?奥田昌子先生に、実生活に役立つ胃腸の新常識について教えていただきました!
新常識1 消化管は「ちくわ」に似ている!
消化管は口から食道、胃、小腸、大腸を通って体を貫通し、肛門まで続く長さ約9mもの長い管です。例えるなら人体は、中心に長い穴のあいた巨大な「ちくわ」に似ています。ちくわのような管ができる過程として、まず体の表面がくぼんで肛門ができ、それがどんどん奥に進んで最後に口が開く形で貫通します。消化管は外界に開いているので、食べ物を飲み込んで消化しても、実は体の中に入ったことにはなりません。腸から吸収されて初めて体内に入れるのです。
新常識2 ピロリ菌には「東アジア型」と「欧米型」がある!
日本の調査では、ピロリ菌感染者はそうでない人と比べて胃がんのリスクが10倍も上がることが指摘されています。また、日本人はピロリ菌に感染するとほとんどが胃潰瘍になりますが、欧米人は胃潰瘍より十二指腸潰瘍になる人のほうが1.5倍ほど多いそうです。この違いは、ピロリ菌の種類の違いに関係していると考えられています。
実はピロリ菌とひと言でいっても、「東アジア型」と「欧米型」に大きく分けられます。日本人が感染しやすい「東アジア型」のピロリ菌は食道付近の胃に感染しやすく、胃がんを発症させる力が強いという特徴があります。一方、欧米人に多い「欧米型」のピロリ菌は十二指腸付近の胃に感染しやすく、胃粘膜を傷つける力があまり強くないという違いがあるのです。
新常識3 タバコの煙は胃腸トラブルの原因に!
喫煙といえば肺によくないという印象がありますが、実はタバコの煙は食道や胃などの消化管にも悪影響を及ぼします。数十万人を対象に何十年に渡って行われた多目的コホート研究調査では、1日20本以上吸う喫煙者は非喫煙者に比べて胃がんの発症率が約1.6倍、食道がんの発症率も約3.3倍高くなるという結果が出ました。また、胃潰瘍の発症率も3倍以上に跳ね上がりました。そもそもタバコの煙には、発がん性物質をはじめとする有害物質が200種類以上も含まれています。
新常識4 最近増えている逆流性食道炎はメタボのせい!?
食事をしてしばらくすると胸焼けがしてくる「逆流性食道炎」を訴える人が近年増えています。実は、内臓脂肪がその一因になっている場合があります。内臓脂肪がお腹にびっしりたまると、脂肪に押されて胃のぜん動運動が妨げられ、食道に胃酸が逆流してしまいます。胃は強烈な酸性の胃酸に耐えられますが、食道は胃酸に弱いので、胸焼けなどの不快な症状が生じるのです。
新常識5 食後に横になるときは左を下にする
寝るときの姿勢によって、逆流性食道炎を予防できます。理想的なのは、就寝時にあお向けで、枕やタオルなどを使って頭から肩にかけて上半身を45度ほど持ち上げた姿勢です。これなら食道のほうが胃よりも高くなるので、胃酸の逆流を防ぐのに役立ちます。横向きに寝るなら、左を下にしましょう。もし右を下にすると、巾着のような胃の入り口がゆるみやすいとされているからです。胃の形には個人差があるので、実際に横になって心地よい角度を微調整しましょう。
新常識6 胃もたれ、下痢、便秘の一因はストレス!
胃もたれや下痢などの不調があっても、検査で異常が見つからない場合があります。そうした症状を総称して「機能性消化管障害」といいます。その代表が、腹痛や下痢、便秘などを繰り返す「過敏性腸症候群」です。日本人の10人に1人は過敏性腸症候群といわれています。
また、胃の機能低下による不快な症状を「機能性ディスペプシア」といいます。「異常なし」と診断された途端に治る人もいますが、症状が何カ月も続く人も少なくありません。その一因と考えられるのがストレスです。精神的にストレスを受けると自律神経のバランスが乱れたり、脳からストレスホルモンが分泌されたり、脳内の痛みに関わる箇所が過敏になったりします。それによって、消化管にさまざまなトラブルが出てくるのです。
新常識7 ストレスと一緒に空気をためこんでしまう!?
自分の気持ちを表現するのが苦手な人や、慎重で遠慮がちな人は、言葉をつい飲み込んでストレスをためこんでしまいがちです。その際、空気も一緒に飲み込んでしまうので、食道や胃腸に空気がたまって、妙にお腹が張ったり、ゲップが出るなどの症状が現れます。これを「呑気症(どんきしょう)」あるいは「空気嚥下症(くうきえんげしょう)」といいます。
また、早食いの人も食事をパクパク食べながら、空気もいっぱいとりこんでしまうため、お腹が空気でぱんぱんに張ってしまいます。これを改善するには、汁ものをすするときにズルズルと音をたてないようにするだけでも空気を必要以上に飲み込みにくくなります。そもそも早食いは誤嚥(ごえん)のリスクも高めるので、意識的によく噛んで食べることが大切です。
新常識8 刺身と焼き魚――消化のいい調理法はどっち?
同じ食材でも、調理法によって消化のしやすさが大きく変わってきます。魚を煮る、焼く、蒸す、干すなど異なる調理をして、タンパク質の消化しやすさについて調べた研究では、最も消化しやすいのが生のままの刺身で、次いで煮魚・蒸し魚、干し魚、酢漬け、揚げ魚、焼き魚――という結果になりました。よく「火を通さないと消化に悪い」といわれますが、タンパク質は加熱時間が長いほどかたまりやすくなるので、実は焼き魚よりも生の刺身のほうが消化にいいのです。
新常識9 牛乳は悪酔い防止にならない
「お酒を飲む前に牛乳を飲むと、胃の内壁に膜を張るから悪酔いしにくい」と言う人がいますが、本当でしょうか?牛乳のタンパク質は胃酸でドロドロになるので、アルコールの刺激を多少緩和する効果は期待できます。
しかし、アルコールの小さな分子は、牛乳の膜のすき間を簡単に通り抜けてしまうので、胃壁に膜を張ってガードしてくれることはありません。そもそも、アルコールの大部分は小腸で吸収されるので、胃に膜を張ったところで、悪酔いを防ぐことはできないのです。
新常識10 胃や小腸・大腸には熱さを感じる神経がない!
「のど元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざがありますが、実際に熱いものを飲み込んで「熱っ!」と感じるのは舌やのど元の食道だけです。喉から下の食道、胃、小腸、大腸には、実は熱さを感じる神経がありません。熱いお茶やスープを飲むと、お腹がポカポカあたたまる感じがするのは、消化管の周りの組織が熱を感知しているからです。
熱さを感じなくても、熱いものに触れれば当然やけどをします。食道の粘膜がやけどをすると、それを修復しようとして粘膜の細胞が活発に分裂します。それを繰り返すうちに遺伝子の異常が起きてがん細胞が発生しやすくなります。あまり熱々のものを好んで摂るのは控えましょう。
まとめ
胃腸について意外と知らないことが多くて目からウロコだった、という人も少なくないのではないでしょうか?正しい知識を大切な胃腸の健康にお役立てください。
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