強壮や整腸に利用されてきた生薬 |
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初夏から盛夏にかけて、個性的な植物の花が次々に咲き誇ります。中でもヤマユリがゆったりと風に揺らぐ姿は、とても優雅です。
『新訂牧野植物図鑑』には、ユリと名の付いている植物が16種収載されていますが、通常、私たちがユリと呼んでいるのはヤマユリとされています。 花の文化史を辿ると、ユリは世界で最も早くから人類に親しまれてきた花のひとつです。ギリシア神話の女神Hera(ローマ神話では女神Juno)の乳汁から咲いた花とされており、古代ローマでは結婚や母性、分娩に結び付けられています。信仰の花としても宗教と強く結び付いており、キリスト教では聖母の花とされています。新約聖書『マタイ伝』第6章28~29節の「野のユリはどうして育っているか、考えてみるがよい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、あなた方に言うが、栄華をきわめたときのソロモンでさえ、この花のひとつほどにも着飾っていなかった」という有名な言葉が記されています。また、ヨーロッパ近東では母性愛の聖花、バビロニア、アッシリア、エジプト神話では豊穣の象徴となっています。 詩歌の対象としては、7~8世紀に編まれた『古事記』や『万葉集』にユリがよく登場し、古くから親しまれてきたことがわかります。特に『万葉集』にはユリを詠んだ歌が22首も収載されていますが、詩歌に広く詠まれるようになったのは、西洋文明が入ってきた明治以降です。 筑波嶺の さ百合の花の 夜床にも 愛しけ妹そ 昼も愛しけ ゆあみする 泉の底に 百合白く ひらくと見たる 二十の姿
名前の由来は、山に自生しているから「山百合」で、別名は「叡山百合(えいざんゆり)」「鳳来寺百合(ほうらいじゆり)」などと呼ばれています。ユリの花は茎が細い割に大きいので、「ゆり動く」となったという説や、根(鱗茎)が数十片合してできているので、「百片合成」から「百合」となったという説もあります。『万葉集』では、「百合」「由利」「由理」が用いられています。 ユリの花言葉は色により異なりますが、総称は「純潔」「優雅」です。 出典:牧幸男『植物楽趣』 |