HOME > 生薬ものしり事典 > 【2019年7月号】世界中で親しまれている「ヤマユリ」

生薬ものしり事典81 世界中で親しまれている「ヤマユリ」


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強壮や整腸に利用されてきた生薬

初夏から盛夏にかけて、個性的な植物の花が次々に咲き誇ります。中でもヤマユリがゆったりと風に揺らぐ姿は、とても優雅です。
ユリは北半球の温帯に分布し、世界に95種生育しています。日本には16種ほど生育しており、球根の輸出も盛んです。花の咲く姿からユリは次の4種に大別できます。

  1. 漏斗(ろうと)状の花が横向きに咲くヤマユリ系
  2. ラッパ状の花が横向きに咲くテッポウユリ系
  3. 茶碗状の花が上向きに咲くスカシユリ系
  4. 花弁が著しく反転し、下向きや斜め向きに咲くカノコユリ系

ウツギ(ウノハナ)


『新訂牧野植物図鑑』には、ユリと名の付いている植物が16種収載されていますが、通常、私たちがユリと呼んでいるのはヤマユリとされています。
ヤマユリは本州中部から北の山地に生え、園芸種として普及しているユリ科の多年生草本です。茎の高さが1~1.5m位に成長しますが、花の重みで倒れてしまうことが多々あります。7月頃、茎の先端に数個の直径15~20cmの大きな花を横向きに咲かせ、強い香気を漂わせます。色は清純な白で、花弁の先が細く尖って巻き返り、内側に赤色の斑点と黄色の筋が通っています。花粉は濃い赤色です。


花の文化史を辿ると、ユリは世界で最も早くから人類に親しまれてきた花のひとつです。ギリシア神話の女神Hera(ローマ神話では女神Juno)の乳汁から咲いた花とされており、古代ローマでは結婚や母性、分娩に結び付けられています。信仰の花としても宗教と強く結び付いており、キリスト教では聖母の花とされています。新約聖書『マタイ伝』第6章28~29節の「野のユリはどうして育っているか、考えてみるがよい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、あなた方に言うが、栄華をきわめたときのソロモンでさえ、この花のひとつほどにも着飾っていなかった」という有名な言葉が記されています。また、ヨーロッパ近東では母性愛の聖花、バビロニア、アッシリア、エジプト神話では豊穣の象徴となっています。


詩歌の対象としては、7~8世紀に編まれた『古事記』や『万葉集』にユリがよく登場し、古くから親しまれてきたことがわかります。特に『万葉集』にはユリを詠んだ歌が22首も収載されていますが、詩歌に広く詠まれるようになったのは、西洋文明が入ってきた明治以降です。


筑波嶺の さ百合の花の 夜床にも 愛しけ妹そ 昼も愛しけ

大舎人部千文

ゆあみする 泉の底に 百合白く ひらくと見たる 二十の姿

与謝野晶子


名前の由来は、山に自生しているから「山百合」で、別名は「叡山百合(えいざんゆり)」「鳳来寺百合(ほうらいじゆり)」などと呼ばれています。ユリの花は茎が細い割に大きいので、「ゆり動く」となったという説や、根(鱗茎)が数十片合してできているので、「百片合成」から「百合」となったという説もあります。『万葉集』では、「百合」「由利」「由理」が用いられています。
学名はLilium auratumで、ケルト語でLi=白い、lium=花を意味し、ラテン語で Lilium=ユリを意味します。
薬用としては、鱗茎が強壮効果や便秘、整腸に利用されてきました。西欧では僧院の薬草園に植えて、滋養強壮、去痰、利尿に用いられ、中国では「百合病(心身の全体的機能衰弱)」の治療に用いられてきました。
食用としては、鱗茎が日本料理に欠かせない食材となっています。


ユリの花言葉は色により異なりますが、総称は「純潔」「優雅」です。


出典:牧幸男『植物楽趣』