HOME > 生薬ものしり事典 > 【2020年10月号】紅葉が見事な「ヌルデ」

生薬ものしり事典97
紅葉が見事な「ヌルデ」

ライン

「五倍子」「塩麩子」の名で知られる生薬

秋が深まってくると、落葉樹は紅葉したり黄葉したりして、葉を落とします。「ヌルデ」は里山でいち早く紅葉し、秋の訪れを告げる植物のひとつです。「ヌルデモミジ」という言葉があるように、秋の紅葉時には美しい姿を見せます。
ヌルデは、「ウルシ」「ヤマウルシ」「ヤマハゼ」「ハゼノキ」などと同じくウルシ科に属する植物です。これらには「ウルシオール」という成分を含むという特徴があります。この成分に敏感な人は、木の側を通ったり、新しい漆器に触れたりしただけでもかぶれてしまうことがあるといわれています。
ヌルデは北海道から九州までの山野に生えるウルシ科の落葉小高木で、高さ5mほどに成長します。葉は枝先に互生して広がる奇数羽状複葉で長さは30cmほどあり、葉軸は小葉の間で翼を持っています。この特徴が、ウルシやハゼノキと区別する目印になります。
ヌルデは花が咲いた後に、小さな平たい円形の核果を結びます。短い毛が密生している実が熟すと白い粉を一斉にふき、毛を固めて白い塊となります。この実をなめると、塩味と酸味を感じます。考古学者の藤森栄一氏は、古代において、これは海から遠い信州人の塩であったと推理しています。
ヌルデの葉にはヌルデノフシムシが寄生して病瘤がよくできます。これを秋に採取して蒸し、中の虫を殺して乾燥したものは「膚子(ふし)」または「五倍子(ごばいし)」と呼ばれています。『本朝食鑑』(1697年)には、「わが国の当世の女子は、鉄漿(おはぐろ)に膚子を合わせて、歯牙にぬっている」とあり、また、五倍子はタンニン、インキ、医薬品、媒染剤の原料として広い用途があります。このように、ヌルデは古くから生活に密着してきた植物ですが一般には紅葉を愛でる植物として知られています。


ヌルデ


昔見し 道たずぬれど なかりける ぬるでまじりの 伊奈の笹原

藤原基俊

もみじして 松に揺そう 白膠かな

飯田蛇笏


植物名は、木からとれる白い汁でものを塗ることができることから「ヌルデ」、あるいはヌルデノフシムシの寄生によって五倍子を生じるので「フシノキ」ともいいます。漢名は「鹽麩子(塩麩子)」です。この名は、実を日干しにした姿に由来します。その用途の広さから、「塩膚木」「白膠木」「麩楊」「五倍樹」といった多くの別名が生まれており、いずれも木の特徴を示しています。『本草和名』(918年)には「ヌテン」の名で登場し、『本朝食鑑』では「沼天(ぬてん)と呼ばれる植物は奴留天(ぬるで)の木である」とされています。さらに、『和漢三才図絵』(1713年)では、奴留天の「天」は「手」を意味し、「奴留手」から和名のヌルデになったとしています。
学名はRhus javanicaで、属名はケルト語で赤の意、種小名はジャワの意です。
薬用には果実を日干ししたものは「塩麩子」、虫瘤を蒸して乾燥したものは「五倍子」という名の生薬として知られています。
花言葉は「知的な」「華やか」「壮麗」です。

出典:牧幸男『植物楽趣』