HOME > 生薬ものしり事典 > 【2020年3月号】里山に早春を告げる黄金色の「マンサク」の花
生薬ものしり事典90
里山に早春を告げる黄金色の「マンサク」の花
消炎や湿疹に用いられた生薬「満作葉」
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多くの木々が眠りから覚めない早春の頃、「マンサク」の花が山を彩り始めます。長いひものような花弁をつけた黄金色の花は、山中でもすぐに分かります。時には花枝に淡雪が積もった風景を見ることもでき、華やかではないけれど、長い冬に耐え、春の訪れが近いことを静かに知らせてくれる花といえます。
昔の人は、「マンサクの花が上向きに咲いた年は豊作」「マンサクが咲かない年や、少ない時は凶作」などと吉凶を占っていました。
マンサクはマンサク科の耐寒性を持つ落葉小高木で、本州、四国、九州の山地によく見られ、特に里山近くの雑木林に多いといえます。樹高は3~10mで、幹は多数に枝分かれしています。葉は互生し、やや歪んだ菱形状楕円形で、葉柄は短く星状毛があります。
春になると葉や芽が出るより先に開花し、葉腋に4弁の黄色い花が数個かたまって咲きます。
花弁はこれと互生し、長さ1~1.5cm、線形で屈曲し、根元は赤色または紫黄色を帯び、短い雄しべ4本が互生しています。果実は花と同時に結実しますが、あまりに地味なため、早春以外は注目されません。
春を告げる花マンサクは、庭木として植えられたり、鉢植えとして販売されたりしています。
類似植物に、葉が円い「マルバマンサク」や、花がやや大型で黄赤色の「ニシキマンサク」や、花が紫褐色の「アカバナマンサク」、黄金色の「シナマンサク」、鮮黄色で香りのある「アメリカマンサク」などがあります。近年、欧米では品種改良が進み、オレンジやレモン色などの種類も生まれています。
なお、古くからマンサクは生活の中で多様に利用されてきましたが、詩歌にはあまり詠まれていません。
おおかたの 枯葉は枝に 残りつつ 今日まんさくの 花ひとつ咲く
美智子皇太后
(2011年1月歌会始の御題「葉」の歌より)
マンサクの植物名の由来について、牧野富太郎博士は『新訂牧野新日本植物図鑑』で、「満作は豊作と同様、穀物が豊かに実ることをいい、この木が枝いっぱいに花を咲かせるので、このようにいう」と述べています。また、本田政次博士は、『花ものがたり』の中で、「山林の中や庭の中で万花にさきがけて、ちいさいながらも黄色い花を枝一面につけている木が目につく~中略~ “先ず咲く”というので、訛ってマンサクになった」と述べています。
マンサクは花の季節を知らずに咲くことから、「トキシラズ」といった別名もあります。
漢名は「金縷梅」ですが、誤った使い方といわれています。
学名はHamamelis japonicaで、属名はギリシア語のhamame(共に)とmelon(リンゴの果実)の合成語で、花と卵形の果実を同時につけるという意味です。種小名は日本特産を意味します。
薬用としては、生薬名を「満作葉」といい、葉を煎じて止瀉(ししゃ)、消炎に使う他、外用に湿疹、皮ふ炎、止血などの民間薬として利用されています。
マンサクの枝は極めて強靭で腐りにくく、いかだを編んだり、山で薪を縛ったりなど、昔からさまざまな方面で使われてきました。また、樹皮も丈夫な繊維なので、縄として利用されてきました。
花言葉は「幸福の再来」です。
出典:牧幸男『植物楽趣』
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