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生薬ものしり事典81 卯月の語源となった「ウツギ(ウノハナ)」


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利尿にも利用されてきた生薬

旧暦の4月の名称は、「卯の花(ウノハナ)」が咲く季節なので「卯月(ウヅキ)」と呼ばれるようになったという説があります。5月初旬が旧暦の4月朔日(旧暦で月の第一日)に当たるので、その日から6月1日頃までが卯月となります。昔は生活が自然と密接だったので、こうした文学的な呼び名が生まれたのかもしれません。枝先いっぱいに群がるように咲く純白のウノハナは、新緑の中でひときわ目立ちます。辺りに漂う花の匂いも、季節の風物詩です。ちなみに、豆腐のしぼりかす(おから)をウノハナと呼ぶのは、この白い小花の咲いている姿と似ているからです。


ウツギ(ウノハナ)


ウノハナの植物名は「ウツギ」ですが、通常はウノハナと呼ぶことが多いといえます。ウツギという名の由来は、「空木と言う意味で、幹の中が中空であるところからきたもの。ウノハナはウツギ花の略とされたものであるが、卯月に咲くという説もある。漢名は溲疏(そうじょ)と言うが正しい使い方ではない。」と牧野富太郎博士は述べています。
万葉仮名には「宇能花」「宇乃花」「宇能波奈」などが使われています。10世紀に編まれた『和名類聚抄』には「宇豆木(ウツギ)」とあるので、平安時代にはウツギの名があったことがわかりますが、和歌などではほとんどウノハナの名で詠まれています。7~8世紀に編まれた『万葉集』にも、ウツギの名はありませんが、ウノハナは24首も詠まれています。夏を告げる時鳥と共に詠まれている和歌が多く、ウノハナの背景によく合っています。


宇能花の 共にし鳴けば ほととぎす いやめずらしも 名告り(なのり)なくなえ

大伴家持

押しあうて 又卯の花の 咲きこぼれ

正岡子規


ウノハナの別名には、「雪見草」「水晶花」「弓木」「かきみ草」などがあり、花の咲く時期や咲く姿、使用目的が由来となっています。
学名はDeutzia crenataで、属名は命名者の植物学者ツンベルグのパトロンだった当時のアムステルダム市長の名前、種小名は葉の縁がのこぎり歯であることを示しています。


ウノハナは北海道南部から九州の山地に普通に見られるユキノシタ科(※新分類体系のクロンキスト体系ではアジサイ科に分類)の落葉低木。分枝が多く、5~6月に円錐花序を出し、白い五弁の鐘状の小花を円錐状につけ、花後は球果を結びます。樹幹は堅く、中は空洞です。垣根に適した高さ1~1.5mぐらいが多いですが、2mぐらいに成長するものもあります。
変種に、花が八重になった「八重空木」があります。他にも類似植物として、「丸葉空木」「姫空木」「梅花空木」などの種類があります。ユキノシタ科以外でも、幹が空洞になっている植物にスイカズラ科の「箱根空木」や「錦空木」、ドクウツギ科の「毒空木」などがあります。


薬用としては、木部の生薬名を「溲疏(そうじょ)」といい、煎じて利尿薬に利用しています。材質が堅いので、たんすや小箱の木釘に使われたり、樽の呑み口や笛にも利用されています。かつては幹の堅さを利用して、ヒノキの板にウツギを摩棒にして発火させ、火種を得ていました。
花言葉は、「古風」「風情」「秘密」です。


出典:牧幸男『植物楽趣』