HOME > 生薬ものしり事典 > 【2016年7月号】未熟な梅を燻した生薬「烏梅(ウバイ)」

生薬ものしり事典46 未熟な梅を燻した生薬「烏梅(ウバイ)」


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今回の「生薬ものしり事典」は、過去にご紹介した生薬百選より「烏梅(ウバイ)」をピックアップしました。

健胃整腸や駆虫薬、染め物にも利用

「梅雨」は6月を代表する季語ですが、梅雨という言葉の由来は、梅の実が熟す時期であるからではないかという説があります。
梅は古来より日本人になじみ深い存在ですが、奈良時代以前に中国より伝来したといわれ、梅の花の豊かな香りや、梅の実の高い薬効から、日本人の文化風習に自然に溶け込んでいきました。
「人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞむかしの香に匂ひける」という小倉百人一首でも有名な紀貫之の和歌に謳われたように、古くは花の代表格として多くの和歌に詠まれており、「花」といえば梅を指すほどでした。
梅の実も食用として日本の食べ物に古くから取り入れられてきました。料理の味の加減を「塩梅(あんばい)」といいますが、それが転じて、ものごとの具合がいいことを「いい塩梅」と表現するようになりました。

梅の木 6月12日撮影
梅の木 6月12日撮影
梅の実 6月12日撮影
梅の実 6月12日撮影

生薬の「烏梅(ウバイ)」は、梅の実が熟す前の未熟なうちに収穫して燻したものです。可憐な梅の花とは似ても似つかない黒い燻製となりますが、烏梅にはコハク酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸やオレアノール酸などの成分が含まれています。生薬の烏梅は主に健胃整腸に用いられていますが、駆虫薬としても使われていました。
烏梅を食べると、燻製独特の風味と梅の酸味が合わさって、とても不思議な味がしますが、中国ではこの烏梅を煮出したジュース「烏梅汁」がよく飲まれているようです。
烏梅はクエン酸が豊富なことから、生薬としての用途だけでなく、かつては紅花の染色の媒染剤(繊維に色を定着させる薬剤)としても使われていました。梅の名産地として知られる奈良県の月ヶ瀬にある梅林は、大正時代に金沢の兼六園と並ぶ日本の名勝第1号に選ばれましたが、月ヶ瀬では600年以上昔から紅花染めに使う烏梅を生産していたそうです。