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生薬ものしり事典 20 つぼみも葉茎も美味しい「フキ」」


平安時代から栽培されているフキは、日本原産の山菜です。早春に残雪の下からいち早く鮮やかな萌黄色の顔をのぞかせるフキノトウは、フキの花のつぼみで、冬眠から覚醒したばかりのお腹を空かせた熊が最初に食べるごちそうといわれています。指でつまんで柔らかければ雌株、硬ければ雄株で、天ぷらやフキ味噌にすると、土の滋味を含んだ爽やかな香りとほろ苦さが楽しめます。開花後に伸びてくるみずみずしく透き通った葉柄は、煮物に最適です。ちなみにフキノトウが春の季語なのに対して、フキの葉は夏の季語ですが、「蕗の葉を傘にさしたる蛙哉」という正岡子規の句からもわかるように、大きな丸い葉はまさに小動物が雨宿りをする傘のようです。
今回は、フキのさまざまな薬効について、養命酒中央研究所の丸山徹也研究員が解説いたします。

フキエキスは花粉症を抑制する
効果もあり

養命酒中央研究所 丸山徹也研究員

フキ(蕗)は字のとおり道端でよく見かける草で、その他庭先や野原でも繁茂しています。独特な風味を持ち、早春を代表する食材として親しまれています。愛知県では手広く栽培がおこなわれており、それらはスーパーで購入することができ、またフキを使った総菜なども販売されています。

販売品
販売品
フキを使った総菜
フキを使った総菜
童謡「お弁当箱の歌」では、「これっくらいの おべんとうばこに」から始まり、おにぎり、刻みしょうが、ゴマ塩、にんじん、ごぼう、れんこん、最後に「筋の通ったふき」となっているように、この場合はフキがまとめ役となっています。色彩面でもフキの緑色が加わることで全体に彩りを添えているように思います。

近年フキのエキスに花粉症を抑える効果があることがわかってきました。スギ花粉症の方に対して、花粉飛散の時期にフキのエキスを4週間飲んでもらったところ、飲用期間中のくしゃみの回数や目のかゆみが軽減し、飲用を止めるとその効果が薄れてきたという試験報告があります。また花粉症といえば、甜茶やシソにも効果があることがわかっています。特にフキとシソは共に風味が良くて身の回りにある野菜で、この2つの素材は、花粉症に対して別々の箇所に作用して抑えるため、併用するとより効果が期待できると言われております。
私の地元の昔の地名は蕗原(ふきはら)です。今でもその名残で、中学校の文化祭は「ふきはら祭」、小学校では地産地消をテーマに食育をする「ふきはら給食の日」が毎月あります。また公民館の研修会名は「ふきはら大学」、さらには旅館「ふきはら」から蕗原神社まで「ふきはら」が揃っております。よっぽど昔はフキばかりが生い茂っていた野原だったのでしょう。
ところで、フキ(蕗)は「くさかんむり」に路と書きます。子供のころ学校帰りに道端にあるフキで大きなものを選んで傘のようにしたりしてよく遊びましたが、これぞミチクサです。

フキは春先にフキノトウを地上に出し、通常その後に葉と茎が出てきます。下の写真は弊社の社員が撮影したもので、フキノトウの一部がフキの葉と化している珍しい写真です。フキノトウが枯れるまで待ちきれずに、つい一緒に顔を出してしまったせっかちなフキの葉です。

フキノトウから葉 フキの葉

フキノトウのトウは漢字で「薹」と書きます。「あの娘もそろそろ薹が立ってきたね」などと若い盛りを過ぎることを「薹が立つ」というのは、フキノトウなど野菜の花茎が伸びると堅くなって食べごろを過ぎてしまうことに由来します。東北の方言ではフキノトウを「ばっけ」「ばっきゃ」などといい、アイヌ語では「マカヨ」「パッカイ」などといいます。アイヌ伝説に登場する小人コロポックル(コロボックル)も、「フキの葉の下に住む人」という意味なのだとか。