暑い夏はトウガラシがピリッと効いた辛い料理が食べたくなる人も多いのでは? トウガラシはナス科トウガラシ属の植物で、原産国は中南米。メキシコでは数千年前から食用として栽培され、常食されてきました。日本に伝わってきたのは16〜17世紀といわれており、江戸時代に誕生した七味トウガラシは国民的ミックススパイスとして愛用されています。ちなみに、関西の七味より、関東の七味のほうがトウガラシの割合が高い傾向があるようです。最近では、トウガラシの辛みが効いたラー油ベースの調味料も話題になりました。
今回はトウガラシの薬効成分などについて、養命酒中央研究所の芦部文一朗研究員が解説いたします。
世界で活躍するトウガラシ、関節痛の研究にも 養命酒中央研究所 芦部文一朗研究員 |
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トウガラシの原産は南米で、栽培が始まったのは7000年以上前だといわれています。ヨーロッパでは、15世紀後半のコロンブス航海の以前には知られていませんでした。日本には1542年にポルトガル人が持ち込んだとも、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際にコショウの種と間違えて持ち帰ったともいわれています。ピーマン、パプリカはトウガラシに近い種類で、辛味を持つものを辛味種、持たないものを甘味種と呼ぶことがあります。シシトウガラシは通常辛味を持ちませんが、辛味を持つ実ができることがあります。その原因としてはいろいろ説がありますが、育っているときの水分不足などのストレスが原因という説が有力です。
トウガラシの仲間は世界中で利用されています。日本では、うどんに振りかける七味トウガラシや、パスタにかけるタバスコソースとしておなじみです。韓国語でトウガラシはコチュと呼ばれ、韓国料理ではよく利用されます。コチュジャン(トウガラシ味噌)は豆味噌、もち米、大豆などを利用して作られ、家庭料理の調味料として用いられます。南米ではトマトと合わせてサルサソースを作ります。 トウガラシには体を温め、胃腸の働きを高める作用があるといわれています。トウガラシの辛味を舌や口で感じるときに、熱い感覚がします。これは私たちの体の熱を感じるセンサーに、トウガラシの辛味成分のカプサイシンが働くからです。そのため、実際には温度は上昇していないのに熱い感じがします。カプサイシンが働く辛味のセンサーは、炎症による痛みの感覚の発信源にもなっていることが知られています。これが、加齢による膝などの関節の痛みと関係していることが分かってきました。現在、カプサイシンの構造をヒントにしながら、痛みや炎症を抑える薬の開発が世界中で試みられています。 トウガラシの辛さを鳥はあまり感じません。そのため、鳥は平気でトウガラシのタネを食べることができます。これはトウガラシが繁殖するための戦略だといわれています。タネをすりつぶす奥歯を持っている哺乳類によって食べられることを、辛み成分のカプサイシンを使って避けつつ、丸飲みにしてタネを遠くに運んでくれる鳥には食べてもらえるようにしています。 |
トウガラシの学名は「Capsicum annuum」といい、この「カプシカム」とはラテン語でカプセル(容器)という意味です。房の中がカプセルのように空洞であることが語源といわれています。
漢字では「唐辛子」と書くので、中国伝来と勘違いされがちですが、中国に唐辛子が伝わったのは明朝末期(17世紀半ば)で、16世紀〜17世紀初めにポルトガルもしくは朝鮮から伝わった日本よりも少し後だったようです。
また、「鷹の爪」はトウガラシの総称ではなく一品種の名称で、鷹の鋭いカギ爪に似ていることから命名されたようです。この鷹の爪を粉末にすると、いわゆる「一味唐辛子」になります。