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生薬ものしり事典 8 耳と縁の深い薬草「ユキノシタ」


花散らしの嵐が通り過ぎ、いよいよ春も本番。これから夏の始めにかけては、暖かさに誘われて山野草が芽吹く季節です。5〜7月に小さな白い花を咲かせるユキノシタも、そんな山野草のひとつ。四国・九州・本州の沢沿いの岩場など湿り気の多い半日陰の場所で見ることができます。白い葉脈が走る丸みを帯びた葉が特徴的で、和風庭園の下草としても人気がある山野草です。自宅の庭先で栽培しているお宅も多いのではないでしょうか。
また鑑賞するだけでなく、葉を天ぷらやお浸しなどの料理に使ったり、花をお茶にしたりと、余すところなく活用できます。

今回は、そんな親しみ深い「ユキノシタ」のもつ薬効成分について、養命酒中央研究所の白鳥研究員が解説させていただきます。

ユキノシタは耳の薬
白鳥 奈緒美研究員(養命酒中央研究所)
ユキノシタの漢名は「虎耳草(コジソウ)」といい、これは毛が生えた肉厚の葉が虎の耳に似ていることから付いた名前といわれていますが、他にも猪耳草、猫耳朶、耳朶草などの別名があります。

明代の『本草綱目(ホンゾウコウモク)』には急性の中耳炎に対して生のユキノシタをついた汁を耳に垂らすという用法が記載されており、臨床でも中耳炎に対する効果が示されているなど名前・効能ともに耳と関係が深い薬草です。中耳炎は細菌やウイルスの感染により中耳が炎症を起こした状態であり、ユキノシタが中耳炎に良いというのは抗菌作用を示す精油成分が含まれていることが関係しているのかもしれません。


その他、メラニンの合成を阻害するアルブチンという成分を含んでいるので、美白化粧品の素材としてユキノシタエキスが配合されたりします。また利尿作用のある硝酸カリウムや塩化カリウムを含むことから、乾燥した葉を煎じたものはむくみ解消にも良いようです。その他にきょ風、清熱、解毒などの効能があり、風邪による発熱や湿疹、腫物などに効果があるとされます。野草としてはあまりクセがなく、葉や花を天ぷらにしていただくとおいしいのですが、食べ過ぎるとお腹が緩くなるそうなので要注意です。

楚々として控えめな風情のユキノシタが、実は中耳炎からむくみ、解毒、さらには美白にも役立つパワーを秘めているとは驚きですね。風流なユキノシタという和名の由来は、降り積もった雪の下に緑の葉があるように見えるからというのが通説ですが、他にも諸説あり、白い小花を雪虫(白い綿雪に包まれたように見えるアブラムシの一種)に見立てて名付けられたという説や、花弁を舌に見立て、“雪の舌”から転じたという説もあるようです。いずれにしても、雪とは無縁のあたたな時季に咲く花から雪を連想して命名するとは、昔の人はなんともイマジネーション豊かですね。