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生薬ものしり事典 5 [オオムギ]ビールの原料か、生薬か。


小正月も過ぎ、ようやく年明けの慌ただしさが落ち着きはじめた1月の終わり。まだまだ厳しい冷え込みが続きますね。この時期、山間部には雪が積もり、里の田畑にも緑はほとんど見られませんが、オオムギ畑では来るべき躍動の春に備えて「麦踏み」が行われます。

「小さな芽を踏みつけたら、やがて枯れてしまうのでは?」とちょっと残酷に思われる人もいるかもしれませんが、これは霜でオオムギの株が浮かないように、また成長を促すために行われるもので、まさに先人の知恵と言えるでしょう。

今回は、そんな試練を押しのけて育つオオムギ(麦芽)の薬効について、養命酒中央研究所の江崎宣久研究員が解説いたします。

糖質の分解を促し、消化を助ける生薬
江崎 宣久(養命酒中央研究所)
麦芽はオオムギを発芽させたものですが、ビール(麦酒とも記されることがありますネ)を思い浮かべた方も多いのではないでしょうか。ビール党の私にとっては冬でも暖房の効いた部屋で飲むビール(最近では麦芽以外の原料からつくられた第3のビールを口にする機会も多くなってきていますが……?)は欠かすことができません。

発芽した大麦
発芽した大麦
大麦の発芽の様子
大麦の発芽の様子

さて、生薬としての麦芽にはどんな特徴があるのでしょうか。穀物の種子には発芽する際に糖化酵素(でんぷん質をエネルギー源として利用できる糖に分解〈糖化〉する酵素、アミラーゼ)の働きが活発になる仕組みがあります。植物として光合成でエネルギー合成ができるようになるまでの間、成長に必要なエネルギーを種子中のでんぷん質から作り出すための仕組みで、オオムギに限らず、コムギ、コメ、トウモロコシなどにも備わっています。しかしその糖化酵素の量や活性は植物により大きく異なっており、オオムギがその質・量ともに最も優れています。

生薬としてはこの特徴を活かして消化を助ける作用を目的に用いられます。あまり多くの漢方薬に使用されている生薬ではありませんが、「加味平胃散」という漢方薬に麦芽が消化を助ける目的で山査子(サンザシ)などと共に含まれています。
以前、中国で「加味保和丸」といった中成薬を服用したことがありました。連日の中華料理で食べ過ぎ、膨満感に悩まされた際に、現地で勧められて結構助けられた記憶があります。この中成薬にも山査子やライフクシ(大根の種子)などと共に麦芽も含まれていました。

オオムギは世界最古の穀物の一つで、古代エジプトのツタンカーメン王の墓の副葬品としても納められていました。日本へ伝わったのは小麦よりも早い1,800年ほど前で、平安時代には「大麦ごはん」として食べられるようになったといわれています。
ビールに加工されるのは「二条大麦」で、ほかにもウィスキーや焼酎の原材料としても知られていますから、左党の皆さんには特におなじみですね。
また若葉まで育ったものは、健康志向の人の間で「青汁」の原材料としても人気。男女問わず、幅広い年代で、日頃からお世話になっている人が多い植物なのですね。