HOME > 生薬百選 > 【2012年1月号】生薬百選 94 川芎(センキュウ)


生薬百選 94 川芎(センキュウ)


生薬であるセンキュウは、センキュウ(植物:写真1)Cnidium officinale Makino(セリ科)の根茎を芯まで熱が通るように60〜80℃の湯に15〜20分漬ける操作をし、その後風通しの良いところに吊るして乾燥させたものです。漢字で書くと写真2の左図のようになります。キュウの字はこのページで使用している文字コード体系の関係で表示できないため、カタカナで『センキュウ』と記載しました。さらに生薬になる前の植物も同じ名称ですので、これを『センキュウ(植物)』と記載しました。


写真1.センキュウ(植物)
写真1.センキュウ(植物)


センキュウは写真2のように不規則な塊状を呈し、表面にこぶ状の隆起があります。味はわずかに苦い味がしますが、特徴的なのは特異な香りで、しいて言えばセロリーに近い香りがあります。センキュウ(植物)は寒さに強い植物で、北海道、東北地方、長野県、奈良県などで薬草として栽培されています。主成分は1〜2%含まれる精油で、特異な香りの本体です。


写真2.センキュウ(右は刻み)
写真2.センキュウ(右は刻み)


センキュウは主に婦人病の漢方薬で使われますが、それ以外でも多くの漢方薬で使われています。「四物湯(しもつとう)」は漢方処方の中の基本処方と呼ばれているうちの1つで、文字通り4つの生薬( ジオウシャクヤクトウキ、センキュウ)で構成されており、センキュウが使われています(残りの3生薬は既に本コーナーで紹介済みです)。センキュウ以外の生薬は、血液を補う補血作用に働くのに対して、センキュウは他の生薬によって補われた血液を巡らせるといった、特別な働きをしています。この四物湯を基本とした処方として、高血圧に用いられる「七物降下湯(しちもつこうかとう)」、免疫賦活作用があり、抗ガン剤や放射線治療による副作用を軽減することでよく用いられる「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」などがあります。また四物湯をベースにしてはいませんが、身近な漢方薬として、婦人病によく用いられる「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」、近年になって、メタボの原因となる内臓脂肪にお悩みの方に人気を博した「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」、認知症患者の幻覚、不安興奮などを軽減するのに用いられる「抑肝散(よくかんさん)」、不眠症に用いられる「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」などがあります。変わったところでは、打撲、捻挫に用いられる漢方薬として「治打撲一方(じだぼくいっぽう)」があります。これは外用ではなくて服用するのですが、このような処方でもセンキュウの持つ効能が巧みに活かされています。
葛根湯は初期の風邪に用いられる処方ですが、これにセンキュウと辛夷(しんい)を加えた「葛根湯加川きゅう辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)」という処方があります。この2生薬が加わることにより、葛根湯の効果に加えて鼻づまりや頭重を改善する効果が付加されます。私は実際にその効果を身をもって何度も体験しています。


写真3.川きゅう茶調散(手前中央がセンキュウ)
写真3.川きゅう茶調散(手前中央がセンキュウ)


さらに特色のある処方として、センキュウを主薬とした「川きゅう茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)」があります。これは頭痛に用いられる処方で、写真3のように生薬粉末をお茶で飲むように指示されているユニークな処方です。お茶の中に含まれているカフェインには脳脊髄圧低下による頭痛を抑える作用があり、この作用とセンキュウの持つ血管拡張作用とがうまく組み合わされた処方です。
このようにセンキュウは多くの漢方処方に用いられていますが、それだけではありません。現在多くの生薬は海外からの輸入品が使われている中、センキュウのほとんどが国内産で賄われていることから、漢方処方中の役割と原料供給の面から重要な生薬といえます。


■ 丸山 徹也 (養命酒中央研究所・商品開発第2グループ グループリーダー)