HOME > 生薬百選 > 【2011年11月号】生薬百選 92 黄柏(オウバク)


生薬百選 92 黄柏(オウバク)


今回は、胃腸薬などによく使用されることでおなじみの方も多いと思われます「黄柏(オウバク)」を紹介します。


写真1.キハダ(Phellodendron amurense Ruprecht)長野県菅平薬草栽培試験地
写真1.キハダ(Phellodendron amurense Ruprecht)長野県菅平薬草栽培試験地


国内に自生するミカン科の落葉高木キハダ(フェロデンドロン アムレンス)の樹皮を剥がしその内皮の部分を薬用としたものが「黄柏」です。樹皮の内側が鮮やかな黄色を呈していることからキハダ(別名;黄肌、キワダ)と呼ばれるようになりました。よくアゲハチョウの幼虫がその葉を好んで食べるようです。


写真2.キハダの皮剥き実習(於:長野県菅平薬草栽培試験地 2011年7月)※皮剥きは、樹皮の間に樹液が豊富な梅雨明け時期(夏の土用前後)に行なわれます。
写真2.キハダの皮剥き実習(於:長野県菅平薬草栽培試験地 2011年7月)
※皮剥きは、樹皮の間に樹液が豊富な梅雨明け時期(夏の土用前後)に行なわれます。


「黄柏」は健胃、止瀉薬として日本薬局方に収載されていますが、古くは二千年以上昔に中国で書かれた薬物書「神農本草経」にも「蘗木(ばくぼく)」の名称で記載されています。「黄柏」はとても苦味が強いのですが、漢方では苦寒薬として黄連解毒湯、温清飲、柴胡清肝湯などの漢方薬を構成する重要な生薬となっています。
また、キハダは全国各地に自生することから、古くから奈良県吉野の「陀羅尼助(だらにすけ)」、山陰地方の「煉熊(ねりくま)」などの民間薬として用いられてきました。長野県内でも古くから「百草丸(ひゃくそうがん)」にゲンノショウコなどと共に苦味健胃薬として用いられています。

苦味の元になっている主要な成分がベルベリンです。その他にもパルマチン、マグノフロリンなどの成分も含まれています。主要成分であるベルベリンには、黄色ブドウ球菌、赤痢菌、淋菌などに対する抗菌作用、血圧降下作用、中枢神経抑制作用、解熱作用などが確かめられており、漢方薬、民間薬の作用との関連性も伺えます。
主成分であるベルベリンは西洋薬としても広く用いられています。例えば「フェロベリン」という錠剤がありますが主要薬効成分としてベルベリンが塩化物水和物として含まれています。下痢などの際の薬として、私も海外旅行の際など常に持参しお世話になっています。生薬から単離された特定の成分が西洋薬になって広く用いられている点でベルベリンは、アスピリン、モルヒネなどと共に代表的なものの一つです。
最近、新聞のニュースで地元メーカーが黒ビールの風味を再現したノンアルコール飲料を開発したことを知りました。黒ビールの苦味をキハダで再現したと紹介されていました。キハダの苦さを思い浮かべると唾液が出てきてしまいます。
まだ、味わってはいませんが、木曽谷に出かけた際には是非試してみたいと思っています。


■ 江崎 宣久(養命酒中央研究所・シニアエキスパート)