HOME > 生薬百選 > 【2011年1月号】生薬百選 82 白朮(ビャクジュツ)


生薬百選 82 白朮(ビャクジュツ)


今年も残るところあとわずかとなりました。そろそろ新年も近い事から、今回は正月にゆかりのある白朮(ビャクジュツ)について紹介します。


オケラの花
オケラの花
オケラの全景(蝶がとまってます)
オケラの全景(蝶がとまってます)

白朮はキク科のオケラ又はオオバナオケラの根茎です。オケラは雌雄異株で、9〜10月頃写真の様な頭花を咲かせます。花の下の総苞(ソウホウ)には魚の骨の様な総苞片が見られます。晩秋にオケラの根茎を掘り出し乾燥したものが白朮であり、特有の芳香があるのが特徴です。この白朮に対して蒼朮(ソウジュツ)という生薬があります。蒼朮の原植物は「ホソバオケラ」で原植物、薬効がよく似ており、2つをあわせて単に“朮”と表現したりします。
主な成分としてアトラクチロンやジアセチルアトラクチロジオールなどがあります。漢方では、体内の水分の働きを正常に調節する働きがあり、健胃、整腸、止汗、利尿などの目的で使用されます。古くから庶民の生活に溶け込んだ山草で、薬草のほか、雨時の湿気払いやかびの防止に利用されてきました。また真夏の夜には、白朮をいぶした煙で蚊を追い出すことも行われていたようです。



白朮は御屠蘇(おとそ)の原料としても知られています。御屠蘇とは数種類の生薬が配合された屠蘇散を酒やみりんに浸けこんだ薬酒です。正月に飲めば、年中の邪気を払い、福寿を招くと言い伝えられています。中国の千金方という漢方古書には「一人がのめば一家に疫なく、一家が飲めば一里に疫なし」と記載されており、御屠蘇を飲む習慣は中国の唐の時代から始まったと言われています。日本には平安時代の初期に中国より伝来し、はじめは宮中の正月行事として飲まれていましたが、次第に庶民に広まっていきました。時代とともに屠蘇散に調合される生薬も変化し、今日市販されているものでは、白朮・桔梗・山椒・防風・肉桂等が用いられていますが、地方や製造元によって多少異なります。
大晦日から元旦にかけて、京都の八坂神社で行われる「おけら祭り」も実はこの白朮が関係しています。神前で焚かれるオケラを加えたかがり火を参拝者は火縄に移し、消えないようにくるくる回しながら家に持ち帰ります。この火で雑煮を炊き、神棚の灯明に火をともして、新しい一年の無病息災を祈ります。八坂神社の参道である四条通りは大晦日の夜から翌朝まで歩行者天国となり、大勢の参拝者で埋めつくされます。

御屠蘇やおけら祭りに用いられる白朮は、正月になくてはならない生薬と言えるでしょう。


■入江 陽(養命酒中央研究所・商品開発グループ)