HOME > 生薬百選 > 【2010年3月号】生薬百選 72 海人草(カイニンソウ)


生薬百選 72 海人草(カイニンソウ)


まだまだ寒い日が続いています。こんな時には温泉にでも入って身も心も温めたくなります。また温かい南の島というのもいいものです。ちょっと強引ですが、今回はそんな南の島にある「海人草(カイニンソウ Digenea simplex)」という生薬を紹介したいと思います。
名前からも分かると思いますが、南の島にあると言いましても海の中です。紀伊半島から九州西岸、沖縄および台湾など、温かい海の中の岩上や珊瑚礁上に生えています。「海人草」はカイニンソウ属フジマツモ科の海藻で、別名「マクリ」とも言われます。大きさは7〜20cm。暗紅紫色で、細かい毛のようなもので覆われています。


海人草(カイニンソウ)
海人草(カイニンソウ)
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3〜8月に全藻を採集し、真水で洗った後、日干しにされたものが生薬として使われます。これを煎じて服用するか、粉末にして服用します。主成分はカイニン酸で、服用すると体内の回虫を駆除してくれます。

「回虫」とは動物の小腸に寄生する虫です。人間に寄生するものもおり、皆さんも一度は耳にしたことがあると思います。感染経路は口からで、卵の付いた指で口を触ったり、汚染されたものを食べると卵が胃に入ります。胃で孵化して、一度小腸に行きますが、そこに留まることはなく、血管などに進入して散らばり、肺、気管支、食道、胃を経て、再び小腸に戻り、卵を産むケースが多いようです。このように体内を回るので「回虫」と呼ばれます。

たくさん体内にいると体調が悪くなったり、腸閉塞や虫垂炎の原因になったりすることもあります。
現代の日本の衛生状態ではあまり心配することはないと思いますが、発展途上国では高い感染率を示しているところもあり、絶滅しているわけではありません。もしかしたら将来、「海人草」のお世話になることもあるかもしれません。頭の片隅に留めておいては如何でしょうか?


■横田 玄(養命酒中央研究所・商品開発グループ)