HOME > 名言集 > 【2005年6月号】わび、さびは“逃げ”だと思います。


名言集


わび、さびは“逃げ”だと思います。



今なお現役。日本が世界に誇る舞台美術家


映画や舞台において空間を創り上げる舞台美術家。その第一人者といえば、朝倉摂(あさくら・せつ)さんです。彫塑家の朝倉文夫氏の長女として生まれた摂さんは、そのころまだ第一線で活躍していた巨匠ピカソの影響もあり絵画の道へ。洋画ではなく、より「難しそう」と感じた日本画を学びはじめます。しだいに頭角を現し、1953年には上村松園賞を受賞。そして1970年に渡米し、その頃から本格的に舞台美術に取り組み始めました。古典のみならずオペラや前衛劇にも積極的に関わり、10年後にはテアトロ演劇賞を受賞。『近松心中物語』、スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』、2001年にはアメリカ、セントルイス・オペラ劇場での『源氏物語』、映画では『写楽』『梟の城』の衣装を担当するなど、今なお現役、今なおパワフルに活動を続けています。



「わびさび」を良しとしない開拓精神がもたらすもの


わび、さびといえば、日本古来から伝わるひとつの「型」として、芸術分野でも無視できない考え方といえます。ですが朝倉さんは、わびさびほど演劇と縁遠いものはないと喝破。わびだのさびだの言い始めるのは、年を重ねて怠け心が生まれたことによる「逃げ」だと言います。わびさびの境地を否定しているのではなく、演劇の本質たる「俗っぽさ、猥雑さ、生命力」とはそぐわない、と言っているのです。いわば、霞を食べて生きる「仙人」ではなく、人間なんだから「俗」でいいじゃないか、という考え方だと思います。過去の実績からいえば、「巨匠」として椅子に踏ん反りかえっていてもおかしくない摂さん、齢80を超えても若いスタッフ達と一緒に、闊達に動き回っています。