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みその雑学

「脳みそ、カニみそ、そこがみそ——みそじゃないのに、なぜみそなの?」「古代から宇宙時代まで、みそは日本人の大切なソウルフード」「手前みそ、みそっかす、みその医者殺し——みそ由来の慣用句」


「脳みそ」「カニみそ」「そこがみそ」——みそじゃないのに、なぜ「みそ」なの?


カニみそ


世の中には、みそとはまったく異なるのに「みそ」と呼ばれているものがあります。その代表が「脳みそ」です。医学用語に「脳みそ」という言葉はありません。「脳みそ」とは、硬い頭蓋骨に守られた中にある、柔らかな組織をひとまとめにした俗称で、正確には「大脳、間脳、脳幹、小脳」の4領域に大きく分けられます。
生の脳を見たことがある人はあまり多くないと思いますが、人間の脳は灰白色で、見た目がみそにそっくりというわけではありません。むしろ「白子」のほうが脳に似ているかもしれません。それなのに「脳みそ」と呼ばれるのは、一説によると、古来よりみそが人にとって重要な存在だったことに由来するのではないか、といわれています。「そこがみそ」と言う時の「みそ」も、「そこが肝(きも)」「そこがツボ」と同様に、重要なポイントであることをたとえた比喩表現です。ちなみに「脳みそを絞る」という言い方をする時の脳みそは、「知恵」や「頭脳」の比喩です。
では、「カニみそ」のみそは、カニの脳みそを指すのでしょうか? 実はカニみその正体は脳みそではなく、肝臓とすい蔵が一緒になった「中腸腺(ちゅうちょうせん)」という内臓です。カニのような節足動物には、ヒトのような脳みそがなく、カニの目や口の側にある「頭部神経節」が脳みそに当たるそうです。もしカニが日本語を話せたなら、どこを指して「ここがみそ!」と言うか、聞いてみたいですね。


古代から宇宙時代まで、みそは日本人の大切なソウルフード

みそ汁は「日本人のソウルフード」といわれますが、みその起源は古代中国の「醤(ひしお:獣や魚の肉を塩や酒に漬けて熟成した調味料の一種)」が日本に伝わってきたのではないかと考えられています。
日本でも弥生時代からみその原型となる塩蔵食品があったようですが、現在のみその原型となる「未醤(みさう、みしょう:豆の残っている醤)」が登場するのは奈良時代頃といわれています。これがやがて「味醤、味曽、味噌」と変化したことが平安時代の書物に記載されています。当時のみそは豆や穀物を塩漬けにした保存食に近く、貴族や高級官僚しか口にできない贅沢品だったようです。鎌倉時代に編まれた『徒然草』には、北条時頼と宣時が台所の器にこびりついていたみそを肴にして酒を飲み交わしたというエピソードも出てきます。
戦国時代になると、栄養豊富なみそは兵糧(ひょうろう:戦地に携帯する栄養源)として用いられるように。「腹が減っては戦ができぬ」と、武田信玄や伊達政宗といった名だたる戦国武将たちもこぞってみそ作りを奨励しました。江戸時代には、庶民にもみそが普及し、各地でさまざまなみそが作られるようになったのです。
現代のようにビニール袋やプラスチック容器でみそが販売されるようになったのは1970年代以降のこと。その後はフリーズドライや液状のみそなど、樽から量り売りされていた時代にはなかった形状のみそが普及していきました。宇宙食のみそ汁も開発されており、日本人の宇宙飛行士に人気なのだとか。宇宙の彼方でも、日本人のソウルフードは不滅のようですね。


「手前みそ」「みそっかす」「みその医者殺し」——みそ由来の慣用句

日本にはみそを使った料理も多種多様ですが、みそにちなんだことわざや慣用句も豊富です。例えば、へりくだりながら自己アピールする時によく「手前みそですが……」と言いますが、「手前」とは「自家製」という意味。かつて各家庭で趣向を凝らした自家製みそが作られたことに由来する慣用句です。また、しくじって面目を失うことを意味する「みそをつける」は、かつて、やけどの患部にみそを塗ったことに由来するようです。
みそはちょっと不名誉な意味に使われることもあります。例えば「みそっ歯」は、みそがついたように茶色くなった虫歯のことです。「みそっかす」は、みそをこした後の残りかすのような価値のないものや、年少者などを意味する言葉です。作家の幸田文(こうだ あや)は有名な随筆『みそっかす』で、幼少期の自身を「みそっかす」にたとえています。
一方、みそが栄養豊富であることに由来する言葉もあり、「みその医者殺し」は、みそを摂取していれば病気にならないという意味。逆に「ばかの三杯汁」は、みそ汁のようによいものでも、過剰にとることを戒める言葉です。発酵食品のみそは健康によい「スーパーフード」ともいわれますが、塩分を気にする人はとり過ぎにご注意を。