HOME > 健康の雑学 >  【2016年5月号】 生薬の雑学

生薬の雑学

モルヒネは生薬から生まれた?! 八角からタミフル?生薬と新薬の意外な関係とは?365日毎食カレーを食べても飽きない?今月は生薬にまつわる雑学をご紹介します。


モルヒネは生薬から生まれた?!


生薬は天然由来のもので、医薬品は人工的なものであると思われていますが、実は生薬から得られた成分をもとに医薬品が作られることも少なくありません。その最も古い例が、医療用麻薬の「モルヒネ」です。モルヒネは薬用植物のケシの実から抽出される成分の化合物です。ケシといえば、「アヘン」の原料として知られていますが、日本で園芸用によく栽培されているヒナゲシではなく、厚生労働省で栽培が原則禁止されているアヘンケシと呼ばれる種類です。古代ギリシア人はアヘンに眠気をもたらす作用があることを知っており、植物分類の始祖といわれる18世紀のスウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネは、催眠を意味する「ソムニフェルム(somniferum)」という種小名をケシに付けました。シェークスピアの『オセロ』にも、熟睡するためにアヘンのシロップを飲むシーンが出てきます。
ただ、アヘンには強い中毒性があり、19世紀にはアヘンの輸入をめぐって清朝と英国が対立する「アヘン戦争」まで勃発。当時から東インド会社を通じて中国にアヘンを供給していたインドは、今では世界のモルヒネの需給を一手にまかなう合法アヘンの一大産地となっています。ちなみに、「日本薬局方」にもアヘン末(アヘンを粉末状にしたもの)が収載されていますが、薬効分類上では下痢を止める止瀉薬(ししゃやく)とされています。

八角からタミフル®?生薬と新薬の意外な関係


八角


新薬を研究開発する際、候補となる物質の多くは生薬など薬用植物に含まれる有効成分が元になっていることがよくあります。たとえば、鎮痛解熱薬の「アスピリン」は柳の樹皮の成分から生まれました。インフルエンザ薬として知られる「タミフル」は、意外にも中華料理でもおなじみの星型スパイス「八角(スターアニス)」の成分からつくられています。抗生物質の「ペニシリン」も、アオカビが元になっています。かつて結核は“死の病”と恐れられていましたが、ペニシリンの登場により完治が可能になりました。ジブリ映画にもなった堀辰夫の小説『風立ちぬ』では、主人公の恋人が結核で若い命を落としてしまいますが、現代ならペニシリンを投与されて元気になり、ハッピーエンドになっていたかもしれません。
かつては植物や菌類などから開発された新薬も、昨今では海外から輸入された「スクリーニング試薬」と呼ばれる無数の化合物をコンピュータでふるいにかけて見つけます。ただ、新薬候補の化合物が見つかっても、人命にかかわるので、効果・効能や安全性が証明されないと新薬にはなりません。いざ新薬デビューするまでに約15年は要し、研究開発費も数百億から数千億円 はかかるといわれます。しかし灯台下暗しとはよくいったもので、免疫抑制剤の「タクロリムス」は、なんと筑波山の土壌に生息する菌から発見されたのだとか。自然の中にはまだまだ未知数の可能性が潜んでいるようです。


カレーは「食べる生薬」


さまざまなスパイスが使われている本場インドのカレーは、「食べる生薬」ともいわれます。世界三大伝統医学のひとつであるインド発祥の「アーユルヴェーダ」には、医食同源の考え方がベースにあります。さまざまな効能を持つスパイスが組み合わされたインドカレーには、体が本来持っている自然治癒力を高めて心身の健康を保つセルフヒーリングの知恵がぎゅっと詰まっています。
インドや隣接するスリランカでは、大人も子どもも365日朝昼晩カレーを食べる習慣があります。ホテルのビュッフェにも朝からカレーが並びますし、インドの「マクドナルド」にはカレー味のバーガーがあります。「毎日3食カレーはさすがに飽きるのでは?」と思いきや、インドやスリンカではスパイスの風味も具材も異なる複数の多彩なカレーを組み合わせて食べるので、毎食違うスパイス料理を食べる感覚のようです。インドカレーの代表的なスパイスは、ウコン(ターメリック)、カルダモン、コリアンダー、カイエンペッパー、クミン、クローブ、シナモン、ナツメグなどですが、カレースパイスのほとんどに健胃作用があるので、食欲増進につながって毎日食べられるのかもしれません。スパイスのブレンドを変えるだけで風味がまったく変わってくるので、ぜひオリジナルのカレースパイスづくりに挑戦してみてください。

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