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“くさい食品”の雑学


思わずギョッとしてしまう、アザラシを使った発酵食品の食べ方とは?果物の王様といわれるあのフルーツが引き起こした騒動とは?外国人が顔をしかめる意外な日本食って何?世界の”くさい食品”にまつわる雑学をお届けします。


アザラシ+海鳥=伝統の発酵食品、その驚きの作り方とは?


今月の特集で紹介した「シュールストレミング」や「ホンオフェ」以外にも、思わずギョッとしてしまうほどのにおいを放つ発酵食品があります。

まずは「キビヤック」。カナダや北米アラスカの先住民に伝わる発酵食品なのですが、驚くのはその作り方。肉と内臓をくりぬいたアザラシに、海ツバメの一種「アパリアス」を数十羽、そのまま詰め込んでアザラシの腹を縫い合わせます。これを土中に埋めて上から石を置き、数ヵ月〜2年間ほど放置。土の中で発酵が進んだところを掘り起し、アザラシの腹に詰めたアパリアスを食べます。

食べ方は、鳥の肛門に口をつけ、その体液を吸い出して食べるのだとか…。東京農業大学名誉教授の小泉武夫氏の著書『くさいものにフタをしない(新潮社)』に、実際に食べた感想が記されています。小泉氏いわく「くさやとチーズとつぶれた生ギンナンを合わせたような強烈なにおい」とのこと。しかし、醸造学・発酵学の権威であり、珍味が大好物の小泉氏、「マグロの酒盗(内臓を原料とした塩辛)のような風味もして、私にはたまらなく美味だった」と感想を述べています。うーむ、さすがですね…。

中国、台湾、香港などで食されている、くさい発酵食品といえば、その名もズバリの「臭豆腐(しゅうどうふ)」。石灰や植物の絞り汁、生薬などを混ぜた液体に、納豆菌、酪酸菌加えて発酵させた漬け汁、そこに豆腐を一晩漬けこむことで出来上がります。地域によっては1週間ほど漬け込むことも。そうすると、青カビのついたブルーチーズのような見た目となります。

豆腐そのものはあまり発酵しませんが、豆腐の表面のタンパク質が分解・発酵し、漬け汁のにおいも加わって強烈なくささを発するようになるのが臭豆腐。もちろん、においの感じ方は人それぞれ。中には臭豆腐を「よい匂い」と捉える人もいて、「強いにおいを発すれば発するほど美味い」と見なされている向きもあります。食べ方は地域によって異なりますが、台湾などでは臭豆腐をいったん揚げ、串に刺してファーストフード感覚で出している屋台も多くみられます。



警察や消防が出動!!原因は”果物の王様”?


“果物の王様”といわれるドリアン。東南アジアなどに旅行すると、リアカーに山積みになったドリアンをよく目にします。トゲのあるような見た目も特徴的ですが、なによりインパクトがあるのは、そのにおい。とろりと甘く、バターのように濃厚な果肉のにおいもしますが、そのにおいに覆いかぶさるようにして「くさい!」と感じるにおいも放たれています。現地のホテルや空港でも、ドリアンの持ち込みを禁止しているところもあるほどです。

ドリアンからは、硫黄を含む揮発物質の他、「インドール」や「スカトール」といった悪臭の元となる物質も放たれています。インドールやスカトールは、糞臭の主成分でもあるため、くさいのは当たり前。ただし不思議なのは「少量なら花の香りになる」といわれていることです。そのため、香水にインドールやスカトールを少量入れることも珍しくないのだとか。

そんなドリアンですが「においはダメだけど、口に含むと気にならなくなる。むしろ美味しい」という方も多くいます。ビタミンやミネラルが豊富で美容にも効果てきめん。南国のフルーツでは珍しいことに、体を温める効能も持っています。ただし、注意したいのはカロリーの高さ。1個まるごとで約1000kcalもあります。日本人の私たちは「そんなにたくさん食べないから大丈夫」と思いがちですが、東南アジアの国々には、無性にドリアンが好きという方も少なくありません。豊作の年には値段も大幅に下がるため、ドリアン愛好家の多いタイでは一度に3個も4個も食べて命を落とすケースもありました。庶民の間には「ドリアンを食べた後にお酒を飲むと胃の中で発酵し、ガスが貯まって危険」という言い伝えもありますが科学的な裏付けはなく、タイ保健省は「死因は食べ過ぎ」と公表しています。

ドリアンのにおいが引き起こした事件が、日本でも過去にあります。平成18年、広島県で「強烈なにおいがする」という119番通報が2件ありました。ガス漏れか!?と思って調べたところ、“犯人”はドリアンの食べかすだったそうです。他の地域でも、同様の事態が起きています。もしドリアンを食べるときは、食べかすの処理なども含め、十分に気をつけてくださいね。

ちなみに2009年、タイの農家が品種改良の過程で“ほぼ無臭”のドリアンの生産に成功したとのこと。日本でも気兼ねなくドリアンが食べられる日が来るかもしれませんが、においがなければないで、ちょっと寂しい気もします。



外国人が「くさい!」と顔をしかめる意外な日本食とは!?


においをくさいと感じるか否か。それは国や地域の文化と密接に関係しています。納豆やクサを外国人に嗅がせると「なんだこれは!」と大半の方が顔をしかめますが、それ以外の食品、私達日本人からするとなんでもないものでも「強烈なにおいだ!」と感じるケースが多々あります。

たとえば、海苔。紙状の見た目もさることながら「生臭くて勘弁」という外国人がかなりいます。特に、海のない地域に住んでいる方は、その傾向が強いようです。逆に、彼らは日本人が敬遠するようなくさいチーズは平気。酪農文化が色濃い地域の人々に比べ、私たちはチーズのにおいを「くさい」と感じてしまうようです。さらに、昨今は世界的な寿司ブームではありますが、「魚の生臭さがダメ」と敬遠する外国人も。海に囲まれた風土で暮らす私達には、ちょっとわからない感覚ですよね。ただし、そんな私たちも中国内陸部や東南アジアで食べる「川の魚」は泥のにおいが気になってダメというケースもあります。

日本だと、お弁当にごくふつうに入っている「たくあん」も、外国人にとっては難敵のひとつ。たくあんの原料となる大根には、他の野菜よりも硫化アリルなどの硫黄化合物を多く含み、漬物にする過程でそれらの匂いが放たれます。日本人は他の国の方に比べ、この硫黄臭には比較的寛容なのだとか。日本人にとっては「(硫黄系)温泉のにおい」であると同時に、お米を炊く際にも硫黄化合物が揮発するので、かぎ慣れていることが第一の原因といわれています。

一方、外国人にとっては硫黄臭は、「おならのにおい」以外に、あまり思い当たるふしがない…そのため「くさい」と見なされているのかもしれません。