HOME > 健康の雑学 > 【2011年3月号】入浴の雑学


入浴の雑学


昔の風呂は“暗闇”だった?家風呂の普及に一役買った一大イベントとは?お風呂と入浴に関する雑学をお送りいたします。


お風呂は“くぐって”入るものだった!?


日本人は、世界でも稀にみるほどの“お風呂好き”。「毎日、お風呂に入る」といっても誰も驚きませんが、欧米諸国ではあまり例がみられません。また、お風呂に“浸かる”文化も世界的にみると珍しいといえます。

しかしながら、“風呂”といえば日本も昔は湯に浸かるというよりは、蒸気を利用した蒸し風呂のことを指しました。今でいうところのサウナに近いといえます。江戸時代の銭湯も、当初は蒸し風呂タイプが主流でした。

ただ、各家庭にお風呂があったわけではありません。そこで繁盛したのが「湯屋」、つまり銭湯です。ただ、お湯がたっぷり張った現在の銭湯のスタイルになったのは明治になってから。いくら日本は水が豊富といっても、今のように水道が発達していたわけではないため、水は貴重品。お湯を沸かす薪も貴重品です。そのため、身体を洗う場所と浴槽の境には低い鴨居があり、これをくぐって行き来するようにしていました。こうすると、浴槽部が隔離され、立ち込めた蒸気が逃げず、湯量も少なくて済むというわけです。ただしそのかわり、光がほとんど入ってこないため、湯船のエリアはほぼ真っ暗。そんな中に入っていく際には「冷え者でござい」と一言発するのがマナーだったそうです。

こうした“蒸す”入浴スタイルを経て、ついに“浸かる”タイプの「据え風呂」が登場します。たとえば、皆さんご存じの五右衛門風呂。安土桃山時代に盗賊として名を馳せた石川五右衛門が釜茹での刑に処されたことからその名がついたこの風呂は、鉄製の風呂桶を下から直火で焚いて湯を熱します。素足で入れば当然やけどするため、浴槽に浮かべた木製の板を踏んで入ることが一般的でした。

この五右衛門風呂、当初は関西地域の据え風呂として使われていましたが、関東では鉄砲風呂と呼ばれるものが台頭します。鉄砲風呂の風呂桶は木製。その隅から、鉄や銅でできた筒が煙突のように伸びていて、薪で沸かす仕組みです。こちらもまた、筒状の部分に誤って触れたりしたらやけどを負うといった代物で、触れないように格子状の仕切りがあるものが多かったようです。


オリンピックが拍車をかけた、家庭風呂の普及


その後、日本の家庭にお風呂が一気に広まった理由として、浴槽だけでなく浴室の壁や床も一体化した「ユニットバス」の登場も見逃せません。現場で左官などの作業をする従来の構法とは異なり、壁や床といったそれぞれのパーツがまずあり、それらを現場に搬入して組み立てる仕組みですので、現場での作業がスピーディになります。一説によると、高度成長期の象徴といえる東京オリンピックが契機になったとか。世界各国から選手、スタッフ、観光客が大挙して来日するわけですから、多くの人を収容できる宿泊施設を、五輪開催日に合わせて素早く施工する必要があったわけです。

ふと考えると、鉄砲風呂や五右衛門風呂、ユニットバスも「狭い」印象を誰しも持っていると思います。ただ、これもやはり少ない水と燃料で済む工夫なんですね。今でこそ、大きな浴槽を備えた浴室のある家庭が増えましたが、ついこの間までは、大人がひとり入れば一杯になるといったことが一般的でした。

しかし、現代の世の中でも「水が貴重」という状況はあります。ここで話を大きく広げて、宇宙の話。宇宙での入浴はどうしているのかといいますと、スペースシャトルの場合、水を使わなくて済むドライシャンプーが活躍しています。洗髪するときも泡が立ちにくく、身体を洗う際も濡れたタオルにボディシャンプーを含ませて拭き、乾いたタオル拭き取るのが基本です。ただ、長期滞在となる宇宙ステーション、ロシアの「ミール」にはシャワーがついています。シャワーといっても水しぶきが降り注ぐのではなく、ミスト状になるため、ごく少量の水で済むのだとか。なにしろ宇宙においては、水は大切な貴重品。でも、湯を張ったバスタブに浸かりながら、漆黒の闇に浮かぶ青い地球を眺めることができたら、さぞかし心地よいでしょうね。


風呂でうどんを食べる風習とは!?


日本には、古くからお風呂になんらかのモノを入れる習わしがあります。わかりやすい例ですと、冬至の柚子。一説によると、「冬至」は「湯治(とうじ)」、「柚子」は「融通が利く」という語呂合わせからこの習慣が生まれたといわれています。

他にも、端午の節句には「菖蒲の葉」、うなぎを食べるとよいとされる「夏の土用」には「桃の葉」。季節の節目は、中国において「鬼(き)」が入り込みやすい時期とみなされています。そのため、節分の日に豆を撒いたり、季節の節目にこれらの湯に入ったりして邪気を払う、といった意味合いもあるかと思います。仏教においても、沐浴は「禊(みそぎ)」とみなされ、奨励されてきた歴史があります。

季節の変わり目と同様に、現在もなお様々な習わしや儀式が行われるものに、家の建築があります。新しく家を建てる土地では今でも地鎮祭を行うことが一般的です。

新築のお風呂にまつわる面白い風習が、香川県の一部地域にあります。香川県といえば讃岐うどんを中心としたうどん文化圏といえますが、家を新築した際、その家の長老、つまりお爺さんが一番風呂に入り、そこでうどんを食べる風習です。長い麺を食べて“長生き”になぞらえる年越しそばと同様の意味合いがこもっているのかもしれません。