HOME > 健康の雑学 > 【2010年12月号】断食・粗食の雑学


断食・粗食の雑学


「飽食の時代」などと呼ばれる昨今。あえて断食や粗食に目を向けてみませんか。よりシンプルに、より健やかに暮らすヒントが見つかるかもしれません。


サッカー選手は食うべきか、食わざるべきか!?


紀元前から行われていた断食。そのルーツは、宗教における修行の一環としての断食です。キリスト教、仏教、イスラム教、ヒンズー教など、さまざまな宗教の宗派のもと、断食が精神修行として行われていました。

現在でも有名なのは、イスラム教における「ラマダーン」ではないでしょうか。「ヒジュラ暦」と呼ばれる暦の第9月、およそ1か月間ほど、イスラム教徒の人々は断食をおこないます。ちなみに、人を騙したり、ケンカしたり、たばこを吸ったり、淫らな行為や品のない行いをすることも禁止。おだやかで寛大な気持ちで過ごすことが求められます。

そんなに長い期間、飲まず食わずで大丈夫?と思われるかもしれませんが、断食が行われるのは日の出から日没までの間。日が沈んでから翌朝までは、飲食しても大丈夫なんです。日が沈むと街は大勢の人々で賑わいます。皆が買い求めるのは、ナツメヤシなどの「イフタール(軽食)」。断食の「回復食」といったところでしょうか。レストランなどのお店もラマダーンの間は、深夜遅くまで営業しています。

ただし昨今では、夜にたくさん食べ過ぎて、「ラマダーンなのに太った」という人も続出しているのだとか。まさに「リバウンド」ですね。

そしてもうひとつ、しばしばラマダーンにおいて話題になることがあるのは、サッカー選手です。断食中にサッカーという激しいスポーツをすることは是か非か、という論争がよく持ち上がります。イスラム圏の国によっては、サッカー選手に断食の義務を免除することもありますが、それでも選手たちの中には「それでも私は断食を続ける!」と貫く人もいるほどです。逆に、2010年8月、“アジアのマラドーナ”とも称されるイランのスター選手、アリ・カリミは、ラマダーンに従わなかったとしてテヘランのチームを解雇されました。もっとも、当のカリミ選手は「解雇の理由は監督を批判したからだ」と主張しているそうですが・・・。

断食によって妊娠の可能性が高まることも


断食のことを英語で「fasting(ファスティング)」といいます。この「fast」が使われている言葉としては、朝ごはんの「breakfast(ブレックファスト)」。これは、睡眠中の絶食状態「fast」を「break(切断する)」という意味です。

日本では、宗教的な目的ではなく、健康目的で断食(絶食)をする際などに「ファスティング」という言葉がよく使われていますよね。欧米では20世紀初頭から研究が始まり、現在では肥満症の改善などに絶食療法が用いられることがあります。

日本において絶食の効果が注目を集めたのは、1968年に端を発したカネミ油症事件。誤って油にダイオキシンが混入し、摂取した多くの人が被害に遭いました。この際、絶食療法を行った患者が、ダイオキシン類の排泄量が増えて症状が軽減。普段、人間は食べ物をエネルギー源としていますが、飢餓状態になると脂肪や肝臓など、既に体内にある物質からエネルギーを生み出そうとします。その際、体内にあった毒素も、便として排泄されたというわけです。

ちなみに、断食によって期待できる健康への効果を今月の特集でもお伝えしましたが、もうひとつ、女性の場合は妊娠する力が高まるとも言われており、実際に「やすらぎの里」では、断食を経て懐妊に至った人もいらっしゃるとのこと。一種の飢餓状態が、生物が本来兼ね備えている「種の保存」能力を引き出すのかもしれません。


粗食を実践する古今東西の有名人たち


今回の特集で取材した断食宿泊施設「やすらぎの里」も「普段の食事は粗食を」と勧めています。現代食は高脂肪・高カロリーになりがちで、肥満はもとより生活習慣病などの原因になりかねません。多くのカロリーを消費する力仕事に就いている方ならいず知らず、粗食でも十分にエネルギーや栄養素を補給できるというわけです。
粗食がカラダによいと唱える人は多く、スポーツ選手ではプロ野球の工藤公康投手が代表的な存在です。工藤投手は47歳で、球界最年長のプロ野球選手。先日、所属していた埼玉西武ライオンズから戦力外通告を受けましたが、それでもまだ「野球を続けたい」と前向きな気持ちを持っていることを、ご本人のブログで綴っています。また、アメリカを代表するアーティスト、マドンナも、現在52歳でありながら若々しさを保ち、アグレッシブに活躍していますよね。彼女も粗食であり「和食党」なのは有名で、お刺身などもよく食べるそうです。

歴史を紐解くと、まずは徳川家康公。旬のものを食べ、主食は麦飯。おかずも少なめだったといいます。また、鷹狩りにも熱心で、身体を動かすことにも余念がなく、長寿をまっとうしました。

また、名君として知られる出羽国米沢藩の藩主、上杉鷹山も「一汁一菜」の質素な食生活を貫いたといわれています。

ただし、一汁一菜の食事は動物性タンパク質が不足になりがちですよね。タンパク質不足による疾病が蔓延したことから、上杉鷹山はある魚に注目しました。それが「鯉」。福島県から鯉の稚魚を取り寄せ、米沢城のお堀で飼い始め、飼育を奨励したといわれています。ちなみに、現在、米沢の名産品は「りんご(apple)」「牛(beaf)」「鯉(carp)」。これらのアルファベットの頭文字をなぞり、この3つの「米沢のABC」と呼ぶそうです。

栄養バランスに配慮した粗食は、高脂肪な食事を摂りがちな現在の私たちにとって、大いに有効といえそうです。