HOME > 健康の雑学 > 【2008年5月号】森と木の雑学



「癒し」と「抗菌」をもたらす木々


人々を癒す。そして人に害を与えるものは寄せ付けない。それが森、ひいては木のチカラです。古来から恩恵を受けてきた木々について、ちょっとご紹介しましょう。



柏餅や柿の葉寿司も、ひいては「森のチカラ」


森、ひいては木が発する成分に、「フィトンチッド」と呼ばれる物質があります。これはもともと植物を傷つけると、その周辺の細菌が死滅することに着目した生態学者ボリス・ペトロヴィチ・トーキン教授が、植物が身を守るためになんらかの物質を発していると定義づけました。「植物」を現す「Phyto」と、「殺す」を現す「cide」から名づけられたといいます。「殺す」というと殺伐とした印象ですが、ある意味で「殺菌」や「抗菌」「消臭」ともとれますよね。

たとえば、柏餅や柿の葉でくるんだ押し寿司。これらは昔の人が培ってきた、食べ物を腐りにくくさせるための知恵です。これもフィトンチッドの効果といわれています。また、森の中で死んだ動物の腐敗臭を軽減させることにもフィトンチッドは一役買っています。

そして木々は、私達の住む家の建材として、あるときは精油として、さまざまなシーンで活用されています。



防虫効果をもたらす「ヒノキチオール」を多く含むヒバの木


ヒノキ

昔から仏像や神殿をはじめとした建築に使われてきた高級資材です。注目を集める華やかな舞台のことを「ヒノキ舞台」といいますが、これはもともと高級なヒノキで作られた舞台のこと。保存性に優れ、独特の良い香りがすることが特長です。日本と台湾に生息しています。


ヒバ

通称「蚊殺しの木」。ヒバで建てた家には3年蚊が入らない、といわれるほど虫に強いことで知られています。蚊だけでなく、ゴキブリ、ダニ、シロアリにも効果てきめんとのこと。これは「ヒノキチオール」という成分が多く含まれているため。「ヒノキ」とありますが、これは「台湾ヒノキ」から初めて抽出されたことに由来します。日本のヒノキにはほとんど含まれていません。


スギ

すっくと真直ぐ伸びる「直木」から名前がついたといわれているスギの木。そのため材木として昔から重宝され、日本の森林面積の12%を占めるといわれています。


モミ

ヨーロッパでは聖なる木。そのためクリスマスツリーとして使われます。その他、やけどや吹き出物などの際に精油を塗布し、抗菌や化膿を防ぐために使われていました。


マツ

マツの木から取れる松脂を蒸留した精油は「テレビン油」と呼ばれ、塗装などの溶剤として使われるほか、医薬品の成分としても使われています。


森に「癒されない」人もいる!?


これまで森のパワーをご紹介してきましたが、昨今には弊害ともいえる事態が生じています。ご存知、花粉症です。スギに始まり、ヒノキやホソムギ、秋のブタクサやヨモギに至るまで、花粉症のもととなる植物はさまざまです。国内では実に2000万人以上が花粉症に悩まされているといいます。森で「癒し」どころではない!という方もいらっしゃることでしょう。

ちなみに花粉症発祥の地といわれているのはイギリス。古くから海軍に力を注いでいたイギリスは軍艦建造のために森林を伐採し、その伐採後に映えた雑草が繁殖。これが花粉症のアレルゲンとなる植物だったといわれています。また、牧草を刈ってサイロに取り込む際に喉や鼻に痛みを伴う症状「枯草熱」も花粉症の発端だといわれています。現在のイギリスの人々をもっとも悩ませているのは、夏に飛散する芝花粉です。

その花粉症の対策として、行政も動き始めています。農林水産省が主導となり、普段食べる「ご飯」で花粉症の症状緩和を目指す「花粉症緩和米」の研究など、医療面での開発が進む一方で、スギやヒノキを擁する「森」そのものを改善してゆく計画も持ち上がりつつあります。

東京都の場合は、東京都花粉症対策本部を設置。多摩地域のスギやヒノキの人工林を、木材生産を旨とした「生産型森林」と、奥山などの「保全型森林」とに分けて対策を施し、多摩地域から発生するスギ花粉の量の削減を目指しています。花粉の少ないスギを植樹して木材資源としつつ、広葉樹の割合を増やしていこうという計画です。

東京都花粉症対策本部

また、財政再建団体となった北海道夕張市では、地元のリゾート会社が「花粉症改善ツアー」を企画。スギの木のない地域特性を活かしつつ、体質改善を促す料理や、医師による問診や血液検査、トレッキングや音楽鑑賞などもカリキュラムに組み込まれています。まさに欧州などで見受けられる転地型の療養ですね。北海道といえば6月に「梅雨」を避けて全国から観光客が押し寄せますが、地域によって春先は「花粉」を避ける旅が、これから流行るかもしれません。

私たちを育み、癒してくれる森。これからも上手に付き合っていきたいですね。