HOME > 生薬ものしり事典 > 【2020年12月号】クリスマスツリーに使われる神聖なモミの木

生薬ものしり事典99
クリスマスツリーに使われる神聖なモミの木

ライン

ドイツでは樹皮の芳香油が薬に

12月になると、花屋さんやスーパーなどの店頭でよくモミの木を見かけます。クリスマスとモミの木の関係性には諸説あり、そのひとつは、8世紀ごろのドイツを起源とするものです。「モミの木がまっすぐ天を指し、すくすくと伸びる姿は、天にまします父なる神につながるもので、礼拝の対象として最上のものである。この木を家に入れて変わらぬ常緑の愛と天に伸びる喜びをともに賛美しよう」という宣教師の勧めがクリスマスツリーの始まりだとか。ドイツにはモミの木が多く生育しており、人々にとって身近な木であることから有名なドイツ民謡の『モミの木』が生まれました。なお、クリスマスツリーにはモミの木以外にもさまざまな植物が使われており、地域によって「ドイツトウヒ」などが使われています。
モミの木が神聖な木であるという思想は日本にも古くからあり、モミの木が天を突くように成長する姿が信仰の対象になっています。『万葉集』(629~759年)に「臣の木(おみのき)」の名前で収載されています。
日本三大奇祭のひとつで、最も古い祭りの形式を伝承する長野県・諏訪大社の「御柱祭」では、各神殿の四隅に立てるすべての柱にモミの木を使い、神域であることを示しています。


モミの木


モミの木はマツ科のモミ属で常緑、高さ30~50m、直径1~1.5mの高木に成長します。樹皮は粗雑で黒っぽい灰色。葉は密に互生しています。6月に開花し、雄花は円柱形で黄色。雌花は長卵状長楕円形で上を向いています。
モミ属は北半球に23種存在しています。日本のモミの木は本州以南に分布しており、「モミ」「ウラジロモミ」「シラビソ(シラベ)」「オオシラビソ(アオモリトドマツ)」「アカトドマツ」と5種類のモミ属が生息しています。
類似のトウヒ属は7種存在し、そのうち「ハリモミ」「ヒメバラモミ」「イラモミ」の3種には『モミ』の名が付いています。
モミは神聖視された木のためか、詩歌の対象にはあまりとりあげられていません。また、『日本大歳時記』(講談社版)には、モミやモミの木は収載されていません。


み湯の上の 木群(こむら)を見れば 臣の木も 生き継ぎにけり 鳴く鳥の 声も変わらず

山部 赤人


モミの木の名前の由来は、古名の「臣木」が変化してモミの木になったという説があります。また、『倭名類聚抄』(931~938年)にはモミ、『新選字鏡』(898~901年)にはモムノキとあり、樹皮が「揉みたるが如く」という意味から転じたという説もあります。
漢名には「樅」を当てていますが、「毛美」「妄榧」「聖樹」と書くこともあります。別名には「サナギ」「オミノキ」などがあります。学名はAbies firmaで、属名はローマ時代の針葉樹を示し、abeo(高く伸びて地上から離れる)が語源といわれています。種小名は強い、堅固という意味で、高く伸びる硬い木であることを示しています。
モミの木の用途は建材が主で、船のマストや燃料に使われます。根がよく燃えるのでろうそくの代用にもされ、またモミの英語「fir」は「fire(炎、松明)」の語源といわれています。
ドイツでは、樹皮からとる芳香油を生傷や潰瘍の薬として使っていました。
花言葉は「向上」「真実」「幸運」です。


出典:牧幸男『植物楽趣』