HOME > 生薬ものしり事典 > 【2014年2月号】中国料理に欠かせない香り際立つスパイス「八角」

生薬ものしり事典 17 中国料理に欠かせない香り際立つスパイス「八角」


八角は、中国原産の「トウシキミ」という木の果実を乾燥させたものです。その独特の香りから、日本人には好き嫌いが大きく分かれる香辛料ですが、日本の七味唐辛子に似た中国の代表的な混合香辛料「五香粉(ごこうふん)」にも含まれており、桂皮や陳皮、花椒、丁香などと共に、中国料理には欠かせない代表的スパイスです。その香りには、川魚や豚肉の生臭さを消す効果もあり、ほのかな甘さや苦みもある個性的な風味が特徴です。「豚の角煮」のもとになった杭州の伝統的な名物料理である「東坡肉(トンポーロー)」をはじめ、「北京ダック」や「杏仁豆腐」にもアクセントとして用いられます。今回は八角のさまざまな薬効について、養命酒中央研究所の白鳥奈緒美研究員が解説いたします。

「東坡肉(トンポーロー)」の香り
養命酒中央研究所 白鳥奈緒美研究員
「八角」とは8個の袋果が星状に配置されているところから名づけられましたが、ほかにもいろいろな呼び名があります。八角の香りの主成分が茴香(ウイキョウ)やアニスと同じアネトールで、香りも似ていることから「大茴香」、星のような形と香りからは「スターアニス」とも呼ばれます。しかし、八角はシキミ科の樹木、アニスはセリ科の一年草、茴香はセリ科の多年草と、植物としては別のものです。
一時、インフルエンザ薬として知られるタミフルの原材料に八角から抽出されたシキミ酸が使われていることが話題になりましたが、八角そのものがインフルエンザに効くわけではありません。また、現在ではシキミ酸は遺伝子組み換え大腸菌を用いた発酵法により生産されています。


八角は、『本草網目』(明代、李時珍著)において芳香性健胃薬、鎮痛剤、駆風剤、腹部膨張、嘔吐などに効果があるとされます。また日本薬局方においては、胃腸薬の原料としてよく使われるウイキョウ油の原料に規定されており、胃腸の働きを調える作用があります。
八角の香りからは中華料理の「東坡肉(トンポーロー)」が思い浮かびますが、東坡肉は北宋時代(960年〜1279年)の最高の詩人とされる蘇軾(そしょく)が考案し、彼の号である「蘇東坡」から名づけられた料理とされています。滋養に富んだ豚肉を、胃腸の働きを調える八角を使って調理した東坡肉をいただけば、滋養強壮によさそうですね。


八角は主に中国南部からインドシナ半島や南インドで栽培されています。中国国内でトップの生産量を誇る雲南省の富寧県(ふねいけん)は、八角の故郷ともいわれており、東南アジアや中東などにも輸出されています。料理の下味や香りづけに用いると、本格的な中国料理の風味になりますが、少量でも強烈な香りを放つので、入れすぎにご注意を。ただし、新鮮な八角でないと独特の風味は出ないので、高温多湿を避けて密閉保存し、風味を損なわないうちに使いましょう。