HOME > 生薬ものしり事典 > 【2013年10月号】生薬ものしり事典 13 クレオパトラにも愛された美と健康の源「ゴマ」

生薬ものしり事典 13 クレオパトラにも愛された美と健康の源「ゴマ」


ゴマの実の収穫時期は9月頃。その独特の香りと食感は、和食や精進料理に欠かせません。ゴマには白ゴマ、黒ゴマ、金(黄)ゴマなど多様な種類がありますが、近年では健康維持はもちろん、アンチエイジングにも効果的な食材として幅広い年代の人に愛されています。その効能は紀元前から知られていたようで、かのクレオパトラも美容のためにゴマの種子を食べたり、ゴマ油を全身に塗っていたのだとか。ローマの英雄アントニオとシーザーを魅了した美貌の陰には、ゴマパワーがあったのかもしれませんね。今回はそんなゴマの薬効成分について、養命酒中央研究所の小野洋二研究員が解説いたします。

食べて健康!小粒でも優秀な生薬
養命酒中央研究所 小野 洋二研究員
ゴマは生薬でも胡麻(ゴマ)と呼ばれます。このほか、胡麻仁(ゴマニン)、芝麻(シマ)、脂麻(シマ)、巨勝子(キョカツシ)などの名称が使われることもあります。
生薬として、また食用として使用するのはゴマ科の一年草であるゴマ(学名:Sesamum indicum )の種子です。「indicum」は「インドの」という意味ですが、原産はアフリカと考えられています。市販されているものはミャンマー産や中国産が多いようです。




種皮の色により区別される黒ゴマ・白ゴマ・金(黄)ゴマは成分的にはほとんど差がないのですが、生薬には主に黒ゴマが使われます。漢方では補陰・潤腸・補肝腎の効能があるとされ、肌を潤わせ、気力を高めることを目的に高齢者などに用いられます。漢方処方としては、トウキ、ジオウ、セッコウ、ボウフウ等、十種類以上の生薬とともに配合される消風散があります。
脂肪分が40〜55%と半分近くを占めていますので、脂質補給薬という位置づけでもあります。ゴマの脂肪分はLDLコレステロール低下の働きを持つリノール酸やオレイン酸などが主体です。これらは本来であれば酸化しやすい成分なのですが、ゴマ油の場合は他の植物油脂と比べて酸化しにくいという特徴を持っていますので、漢方処方では軟膏の基材としても用いられています。
ゴマ油が酸化しにくいのは、強力な抗酸化作用を持つゴマリグナンが一緒に含まれているからです。ゴマリグナンの機能性に関する研究はとても盛んに行われており、抗発がん性や血圧降下作用、血清の脂質を低下させる作用、肝臓の脂質代謝機能改善、ビタミンE活性向上作用などに関連した報告がみられます。
ゴマリグナンの持つ機能でとくに注目したいのは、アルコールやアセトアルデヒドの分解促進です。ゴマリグナンは肝臓まで到達して機能を発揮するそうですので、お酒を飲む際にはごまだれやごまドレッシングを使った料理などを肴にするのも良いかもしれません。ゴマのエキスが入ったお酒があればなお良いですが、あくまでも適量飲酒が前提のお話です。いくらゴマリグナンが助けてくれるからと言って、飲み過ぎては元も子もありませんのでご注意を。

通常、ゴマは鞘から取り出し、洗って乾燥させますが、洗いごまのままでは種皮が固くて香りも良くないため、炒りゴマ、切りゴマ、すりゴマなどに加工して食用にされます。現在、日本で消費されているゴマ(約16万トン)のうち、約99.9%は輸入に頼っており、残りの0.1%に相当する国産ゴマの大半は鹿児島県喜界島で生産されています。その香り高さは世界屈指といわれており、秋の収穫時期には刈り取ったゴマをずらりと天日干しした「セサミストリート」が出現し、島の風物詩となっています。