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生薬ものしり事典 9 山菜の代表格、ワラビとゼンマイ


木々が競って若葉を茂らせる新緑の季節がやってきました。「ワラビ」と「ゼンマイ」は、全国の山裾や沢沿いなどの比較的湿った場所に自生し、この時期に芽吹く代表的な山菜として知られています。「山菜の天ぷら」や「山菜そば」などの和食メニューで見かける、おなじみの食材ですね。どちらもシダ植物の一種で、先がクルリとうず状に丸まった芽を食用に摘み取ります。
見た目の一番の違いは、ゼンマイは芽が大きな1つ、ワラビは小さな芽が3つあること。また、ワラビはぬめりがあってクセがない味わい。一方ゼンマイは独特の食感が楽しめます。
今回は、そんな「ワラビ」と「ゼンマイ」の薬効や食べる際の注意点について、養命酒中央研究所の丸山徹也研究員が解説させていただきます。

伝統的なアク抜き法で無毒化
丸山 徹也研究員(養命酒中央研究所)
山菜を食べるには適度なアク抜きが必要となります。アク抜きは、山菜の中に含まれるえぐ味、渋み、不快な匂いや褐変させる成分を除いたりすることです。特にワラビには発癌成分が微量に含まれていることが知られていますが、伝統的なアク抜き法により分解し、無毒化することがわかっています。

ワラビ、ゼンマイのような繊維の多い山菜のアク抜きは、水に灰を溶かした上澄み液か重曹を溶かしたアルカリ性の液が使われます。アルカリ性にすることで、繊維を柔らかくし、組織を膨潤させてアクを出やすくしています。ちなみにタケノコの場合には米ぬかや米のとぎ汁が使われます。米ぬかを使用すると、水だけよりも10倍の効果があったという報告がありますが、なぜそのような効果があるのかは十分に解明されていないそうです。伝統的なアク抜きの調理方法も、調べてみると理にかなっているということがわかります。


ワラビ

ゼンマイ
近年地域の特産品を開発する目的でワラビ、ゼンマイの機能性が調べられています。両者には抗酸化能が認められ、それにはポリフェノール成分が関わっていることがわかってきています。アク抜きを行った場合の抗酸化能が気になりますが、若干損失する程度であり、大半が残存することもわかっています。

語源には諸説ありますが、ワラビは焼いた藁(わら)に似ていることから「藁火」が転じたといわれています。ゼンマイは渦を巻いた新芽が穴の空いた古銭に似ていることから「銭巻」が語源という説があります。
万葉集などにはワラビの名がしばしば登場しますが、歌が詠まれた内容から生育環境を推し量ると、実はワラビではなくゼンマイであったり、その近縁種ではないかといわれています。当時はまだワラビやゼンマイの食習慣はなかったと見られ、その風味を詠んだ和歌もありません。食卓に上るようになったのは江戸時代以降で、明朝伝来の『本草綱目』という薬学書にはワラビのアク抜き法も詳しく書かれています。