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生薬ものしり事典 6 クローブで「寒さ対策」を


大寒・立春を過ぎ、そろそろ春の足音が聞こえ始めました。木々の芽も膨らみ始めましたね。とは言え、日本列島に春が訪れるのはまだ少し先のこと。まだまだ寒さ対策は欠かせません。

体の芯から温かく過ごしたいなら、食べ物にも工夫をすることが大切です。数ある生薬の中には、体を温め、冷えに効果的なものが多数ありますから、ぜひ活用したいですね。中でも「ショウガ」「チョウジ」など、スパイスとして手に入れやすい生薬は、いつもの料理にパパっと加えるだけで取り入れることができますから、とても重宝しそう。食卓を見回せば、寒い時期に食べたくなる料理の中には、体を温めるのに有効な生薬のヒントがたくさんありそうです。

今回は特に「クローブ」を採りあげ、その薬効や使用例などについて養命酒中央研究所の白鳥奈緒美研究員が解説いたします。

身体内部の冷えには、クローブ
白鳥 奈緒美(養命酒中央研究所)
寒い冬でも暖かい部屋の中では冷たい物を食べたり飲んだりしますが、度が過ぎるとおなかをこわす羽目にもなります。こうした身体内部の冷えからくる不調に対して使われる生薬のひとつにクローブ(生薬名は丁子または丁香)があります。その作用は温中降逆と言って、中=胃腸を温め、気の逆流を引きもどすので、冷えによる腹痛や、消化不良、しゃっくりなどに対する漢方処方に用いられています。

薬膳では冬は身体を温めて腎の養生をするのが良いとされ、五臓のうちのどこに効くのかを表す“帰経(きけい)”が腎で、性質が温熱性の素材を多く用います。クローブは帰経が腎、性質が温性なので冬向きの素材ですね。簡単な薬膳としては紹興酒などの醸造酒にクローブを入れて蒸す丁香煮酒があり、冷えからくる腹痛・嘔吐・下痢などに良いとされます。日本で小正月にあずき粥を食べる習慣がありますが、これにクローブと少量のショウガ、(好みで黒砂糖も)を加えた丁子赤小豆粥という料理もあります。これはおなかに冷えや余分な水分が滞留していることからくる不調に良いとされます。
薬膳ではありませんが、中華のミックススパイス五香粉は、シナモンやクローブ、ウイキョウ、八角、サンショウ、チンピなどが組み合わされていることが多いようです。温熱性のスパイスばかりが組み合わされた五香粉でつくる中華風味の唐揚げなども冬にはよいかもしれません。


西洋では、ホットウイスキートゥディやグリューワインという冬の飲み物や、フランスの家庭料理のポトフ、クリスマスの時期に食べられることが多い焼菓子で発酵生地にハチミツ、スパイス、フルーツの砂糖漬けなどを加えたパン・デピスなどにもシナモンやクローブが使われています。
西洋におけるクローブをはじめとするスパイス類の使用は、その香りによる肉の臭み消しや抗菌作用による保存性を増すことなど実用面に重点があったようですが、薬膳の様に理論化されていなくても身体を温める作用は体感的に会得して使っていたのでは?と思えます。

クローブはフトモモ科の木で、その花のつぼみを乾燥させたものがスパイスや生薬として珍重されています。その特徴は何と言っても、強く甘い芳香としびれるような刺激味。航海時代には、クローブが育つ島に風下から船で近づくと遠方からでもその存在を認識できたことから、「百里香」の別名も持っています。

形が濃褐色の「釘」に似ていることからフランス語では釘を意味する Clou と呼ばれ、また英語の Clove もこれを語源としているのだとか。一方、偶然にも、中国名に使われる「丁」と「釘」は同じ意味を持ち、どちらも同じ「ヂィン」と発音します。文化も歴史も異なる東洋と西洋で、同じ語源・同じ発音を持つ名を持つなんて、なんだか不思議ですね。