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生薬ものしり辞典 1 疲れた胃には、チンピとキジツ


【編集部よりお知らせ】
新連載「生薬ものしり事典」が今号よりはじまりました。毎回ひとつの生薬を採りあげ、その特徴や効用などについて、弊社中央研究所の研究員が解説するコンテンツです。ご好評いただいた連載『生薬百選』(2004年12月号〜2012年7月号)に引き続き、皆様に生薬の世界を理解していただく手引きとなれば幸いです。

全国各地で猛暑日と熱帯夜が続いた今年の夏。冷たいそうめんを食べ、かき氷で涼をとり、湯上りによく冷えたビールを飲む……そんな日々を繰り返した人も多いのではないでしょうか。長びく厳しい残暑を乗り切ろうとまだまだ冷たい飲食物を口にする人も多いと思いますが、そのような食生活が続くと胃が疲れきってしまいますので気をつけたいところです。

さて、今月は胃腸の働きを正常化して自然な状態に戻してくれる生薬をご紹介します。現在、私たちが活用している生薬は、先人たちが長い年月をかけて効能を発見してきたものばかりですが、どのような生薬が胃の疲れに有効なのでしょうか。養命酒中央研究所の丸山徹也研究員が解説いたします。

生薬は「相乗効果」で効果を発揮
丸山 徹也(養命酒中央研究所 副所長)
夏バテは夏の猛暑の時だけでなく、少し涼しくなった秋口になって胃腸の不調などで現れることがあります。このような胃腸機能の低下に対して東洋医学では、胃酸の分泌を促進させるとともに、胃から腸への排出を早めたり、腸の蠕動運動を促進させるような「理気薬」という分類の生薬が用いられます。「理気薬」にはチンピ(ミカンの皮)やキジツ(ダイダイまたはナツミカンの未熟な果実を乾燥させたもの)などがあります。これらは、柑橘系の食品でもありながら、同じ作用を目的として開発された西洋薬とほぼ同等の効果を持っています。

キジツ
キジツ
チンピ
チンピ

「夏の冷たい飲食で弱った胃には○○の生薬が効きます」とずばりコメントできると良いのですが、実は漢方では生薬を単独で使用することはあまりなくて、葛根湯のように複数の生薬を組み合わせた漢方処方として用いられます。生薬単味では弱い作用を、相乗効果により強くしたり、生薬の持つ副作用を他の生薬が抑えるように長い経験の中から生まれてきたものです。夏バテの漢方処方につきましては、体質や症状に応じて異なりますので、漢方に詳しい医師や漢方相談を実施している薬局に相談されるのが良いと思います。

ところで、先のチンピやキジツは消化管の働きを活発にさせますが、その逆の作用を持った生薬もあります。シャクヤクとカンゾウの組合せが良い例で、この場合単独では効果が見られないのに、2つを組み合わせると西洋薬に匹敵するくらいの効力を発揮します。この相乗効果は科学的に解明されていますが、多くの生薬の組み合わせには未知な部分が残されています。その中には今回のような夏バテに大きな効果を示すような組み合わせもあるのかもしれません。

生薬の原料は植物・動物・鉱物とじつにさまざまな種類があるのですが、普通なら捨ててしまうミカンの皮さえも生薬として立派に役目を果たすのですね。また、様々な成分が少量ずつ複雑に作用して効果を発揮する、という生薬の働きは、薬用養命酒にも応用されています(宣伝してしまいました)。
生薬のチカラについてご案内する新連載「生薬ものしり大辞典」。これからも、季節のテーマに沿った生薬を弊社研究員のコメントとともにご紹介していきます。生薬を意識して暮らしに取り入れることで、毎日をちょっと快適に過ごせたらいいですね。