HOME > 生薬百選 > 【2012年5月号】生薬百選 99 桑(クワ)

生薬百選 99 桑(クワ)


子供の頃、5月下旬になると黒く熟した桑の実を、服に紫色のしみを作りながら捥いで食べたことがある人も少なくないのではないでしょうか。今回は、昔からそのさまざまな部位が薬として利用され続けている「桑」を紹介します。
一般的に「桑」と呼ばれるのは、植物分類学で「マグワ」のことを指します。クワ科、クワ属の植物で、北海道から九州の日本各地と朝鮮半島から中国大陸の山地に分布する中国原産の落葉高木植物です。昔から絹糸になるマユを作る蚕の餌として知られています。
製糸業は明治〜昭和初期の日本の主要産業でした。特に、信州では多くの農家が桑畑で取れる桑の葉で「お蚕さま」を飼い、映画・小説の「あヽ野麦峠」で知られる女工哀史の舞台にもなりました。今も当研究所周辺では、田畑の隅に少し残された桑の木を見かけます。



桑は薬用に使用する部位が多く、「日本薬局方」には、冬に根を掘り、皮部を剥いで天日乾燥した桑白皮(そうはくひ)が収載されています。民間では葉や実なども薬用とされ、11月頃の葉を採取して天日乾燥したものを桑葉(そうよう)といい、4〜6月頃に若い枝を刈り取り天日乾燥したものを桑枝(そうし)、実の部分(果穂)を集めて乾燥したものを桑椹(そうじん)といいます。


日局生薬「桑白皮」
日局生薬「桑白皮」
桑の葉
桑の葉
桑枝(そうし)
桑枝(そうし)
桑椹(そうじん)
桑椹(そうじん)

桑白皮は漢方では消炎性利尿、緩下、去痰、鎮咳、鎮静などに処方されます。桑葉はお茶として、フラボノイドの抗菌作用のほか、感冒などの発熱、頭痛、結膜炎、口渇、咳嗽など用途は数多くあります。桑枝は漢方では去風湿の効果から、主に関節の痛みや四肢のひきつり、浮腫などに用います。桑椹はポリフェノールやアントシアニン、ビタミン、ミネラルが多いほか、必須アミノ酸もバランスよく含まれており、補養薬や、補腎として老化防止に使われています。


桑の花 (雌花)
桑の花 (雌花)


最後に、先日桑の花を見かけましたので紹介します。桑は、実が付いていてはじめて気付くほど、咲いていることにさえ気付かれない地味な花ですが、4月から5月の春先に新しい枝の基部に淡黄色の小花が密集した楕円形の花序をつけます。1本の木に雄花と雌花をつける雌雄同株と、雌花だけまたは雄花だけをそれぞれつける雌雄異株の両方があります。雄花序(雄花がたくさん集まったもの)は円柱形で垂れ下がり、オシベが4本、雌花序(雌花がたくさん集まったもの:写真)は長楕円形で、花柱のないメシベが1本あります。雄花、雌花とも花弁が無く、がくは4枚あります。
近くに桑の木があったら、来年はぜひ探してみてはいかがでしょう。


■ 宮澤 愛夫 (養命酒中央研究所・商品開発第一グループ 上級研究員)