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生薬百選52 夏枯草(カゴソウ)



弊社研究所の日当たりの良い土手に下の写真のような一風変わった紫色の花を付ける草が生えてきます。これは「ウツボグサ」という草です。「ウツボ」といえば、伊豆の八幡野や弓ケ浜などの漁港でキビナゴやイカなどを餌にして底釣りすれば簡単に釣れる魚ですが、この草の名前の由来は花穂(かすい)の形が「うつぼ」(靱)という矢を入れる道具に似ているためとされているようです。この草は、日本、中国、韓国〜西洋(英名:セルフヒールselfheal)までの広い範囲で薬草として用いられています。



ウツボグサ(2008年6月 研究所見本園)



日本、中国では生薬名を夏枯草(かごそう)と言いますが、これは7月から8月頃になると写真右下のように花穂だけが枯れたようになることからついた名前です。日本薬局方には「本品はウツボグサPrunella vulgaris Linne var. lilacina Nakai (Labiatae) の花穂である」と記載されています。成分はトリテルペンサポニンのprunellinなどで、日本では主に利尿・消炎剤として用いられてきましたが、当帰・玄参・芍薬などと配合して(夏枯草散)眼の痛みに用いられてきたようです。また、抗がん作用、ヒトエイズウイルス(HIV)増殖抑制効果の報告もあります。



ウツボグサ(花穂のみ:左),生薬「夏枯草」(中),穂拡大(右)



さて、研究所周辺には下の写真のようなものもみられます。花穂や葉を見るとウツボグサそっくりですが、花は白く小型で形も少し異なります。私共が所持する植物図鑑には掲載されていませんでしたが、インターネットで調べたところ、「シロバナウツボグサ」らしいことがわかりました。局方に収載されているウツボグサには、学名の変種(var)に「lilacina」(ライラック色の、という意味)があてられていることもあり、薬用として適するか否かは不明です。



シロバナウツボグサか?



蛇足ですが、インターネット等で夏枯草(カゴソウ)を調べると「白毛夏枯草」という生薬が出てくることがあります。これはキランソウ(Ajuga decumbens Thunb.)という全く別の植物で、生薬としては全草(根まで含む)を使用しています(写真)



生薬「白毛夏枯草」, 中央は水で膨潤, キランソウ(右)



なお、夏枯草は厚生労働省の出した通達により、医薬品原料としてしか使用出来ないことになっていますが、キランソウ(白毛夏枯草)は医薬品的効能効果を標榜しなければ食品原料をしても利用できます。



■ 泊 信義(養命酒中央研究所・主任開発員)
鹿児島県出身。薬草園管理の責務を果たしながら、生薬のDNA鑑別、栽培試験を行なってきましたが、最近では生薬、和漢天然素材を応用した商品開発に関わるようになってきています。