HOME > 生薬百選 > 【2008年6月号】生薬百選51 紫根(シコン)
私事ですが、先日仏壇のロウソクの火が造花に燃え移り、それを素手で消そうとして大火傷を負ってしまいました。そこでと言っては何ですが、今回は皮膚の外用薬として知られる「紫根(シコン)」という生薬を紹介します。
紫根は日本薬局方に収載されており、基原植物は「ムラサキ Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zuccarini.(Boraginaceae)」と記載されています。写真1は弊社に「ムラサキ」として植えられている植物ですが、実はムラサキの代用品としてよく栽培されている「セイヨウムラサキ(L. officinale L.)」であるとの指摘を受けました。本物のムラサキは、花がもっと白くて大きいとのことです。
写真1.セイヨウムラサキ
生薬にはその名の通り根が使用され(写真2)、抗炎症作用、創傷治癒の促進作用、殺菌作用などがあります。江戸時代に外科医華岡青洲(はなおかせいしゅう)が考案した軟膏「紫雲膏」で主薬として使用され、ひび、しもやけ、火傷などの他、医療では痔疾に用いられます。薬用成分はナフトキノン誘導体のシコニンやナフトキシンなどです。
また、古くから布の染料としても利用されており、乾燥した根を粉にして微温湯で抽出し、灰汁で媒染するそうです。
写真2.生薬「紫根」
ムラサキは、日本全土、朝鮮半島、中国、アムール地方に分布する多年草で、万葉集に「あかねさす 紫野行き 標野行き 野守は見ずや 君が袖振る」(額田王)として詠まれるほど古くから親しまれてきました。しかし、現在ではめっきり数が減り、多くの地域で絶滅危惧種となっています。栽培は非常に難しいということですが、現在でも各地に栽培化を試みる方々がおられるようです。
■ 泊 信義(養命酒中央研究所・基礎研究グループ)
鹿児島県出身。薬草園管理の責務を果たしながら、生薬のDNA鑑別、栽培試験を行なってきましたが、最近では生薬、和漢天然素材を応用した商品開発に関わるようになってきています。