HOME > 生薬百選 > 【2008年3月号】生薬百選48 桂皮(ケイヒ)


生薬百選48  桂皮(ケイヒ)


発汗、解熱、鎮痛作用といった薬効をもつほか、 香辛料としても用いられる桂皮(ケイヒ)。 実際に桂皮を切って、嗅いで、気づいた思いを 顕微鏡で観た香りの成分とともにお届けします。



クスノキ科ケイの樹皮をはいで乾燥させたものを桂皮といいます。独特の香りが特徴的で、ニッキまたはシナモンの香りと表現した方がピンとくる方が多いかと思います。 原植物は中国南部、ベトナムでよく栽培されているように、温暖な気候を好みます。弊社研究所においては、温室内のものはよく育っていますが、玄関ホールに置いてある鉢植えのものは長野県の気候では寒いせいか、勢いがありません。

医薬品のほか香辛料としても用いられ、発汗、解熱、鎮痛作用等があることから、漢方では葛根湯、桂枝茯苓丸、安中散、十全大補湯など多くの処方に用いられています。

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玄関ホールのケイ




顕微鏡写真 赤い斑点が精油

ところで、この香りの成分(精油)は、なんと顕微鏡で見ることができるのです。

桂皮の端をカッターナイフで薄く切り取り、見やすくするために染色をして顕微鏡で見ます。赤い斑点が数多く見えますが、これが精油です。精油を蓄える役目の細胞(精油細胞)があり、この細胞が中に蓄えた精油がこのように油滴として観察されます。精油はもともと揮発しやすい性質を持っていますが、このように細胞内にとりこまれて保護されているために、すぐに揮散せずに長期にわたって香りを少しずつ発していくことができます。



揮発や変化しやすい成分を保護するためにマイクロカプセルの中に閉じ込める技術がありますが、生薬中の精油の多くは、このように天然のマイクロカプセルとなって閉じ込められています。

桂皮の香りといえば、京都の銘菓「八ツ橋」の香りです。このお菓子と桂皮の形が非常によく似ています。はじめは桂皮を模してつくられていたのかと思っておりましたが、実はそうではありません。昔はニッケイ(日本のケイ)の根の皮を用いていたため桂皮とは関係がなく、琴と橋をイメージしてこの形になったそうです。しかし偶然とはいえ、よく似ていると思い、思わず桂皮をかじってみたところ、なんと歯ごたえまでそっくりでした。


温室内のケイ




八ツ橋(左),桂皮(中,右) 裏がえしたところ
      




■ 泊 信義(養命酒中央研究所・主任開発員)
鹿児島県出身。薬草園管理の責務を果たしながら、生薬のDNA鑑別、栽培試験を行なってきましたが、最近では生薬、和漢天然素材を応用した商品開発に関わるようになってきています。