HOME > 健康の雑学 > 【2011年4月号】春と健康の雑学


春と健康の雑学


明るく活動的でもあり、どこか物憂い時期でもある春。心も体も上手にコントロールしつつ、この季節を健やかに過ごしたいものですね。今月は、「春」にまつわる健康雑学です。


風が吹き荒れる春は、体内にも風が吹く!?


大半の方は、「風邪」と書かれていたら「かぜ」と読みますよね。しかし東洋医学の世界においては「ふうじゃ」と読みます。

「風邪=ふうじゃ」とは、さまざまな病気の外因となる「六淫(りくいん)」と呼ばれるもののひとつ。他には「寒邪(かんじゃ)」「暑邪(しょじゃ)」「湿邪(しつじゃ)」「燥邪(そうじゃ)・乾邪(かんじゃ)」「火邪(かじゃ)・熱邪(ねつじゃ)」があります。身体のバランスが崩れ、これらの“邪”が体内に入ってくることによって病気になる、という考え方です。読んで字のごとく「寒邪」は寒気、「湿邪」はだるさなどの倦怠感、「燥邪」は喉の乾燥、「火邪」は発熱やほてりを伴うといわれています。

「風邪=ふうじゃ」は、他と比べて影響力は弱いとされるものの、他の“邪”を伴って、肩甲骨の上辺、背骨寄りの位置にある「風門」と呼ばれるツボから侵入し、それこそ風のように病状が早く進むといわれています。また、頭痛やめまいなど、上半身に症状が出やすい特徴があります。

この「風邪=ふうじゃ」の影響がもっとも強くなるのが、春という季節。春は気温の変化が激しく、自律神経も乱れがちになります。花粉症などもあいまって体内の「気」が弱り、「風邪=ふうじゃ」が身体に入ってきた結果、「風邪=かぜ」という症状になって現れる、というわけです。

ちなみに「風邪」を「ふうじゃ」と読むなら、東洋医学において実際の「風邪=かぜ」のことは何と呼ぶのかといいますと、これは「感冒」という言葉で現しています。


「春は物憂い季節」と感じるのは万国共通!?


春といえば、心機一転して何かを始めたりと、アクティブな気持ちに駆られる季節。その反面、五月病など気分がふさぎがちになる傾向も否めません。

この矛盾した気持ちが宿るのは、なにも日本人だけではありません。英語には「spring fever」という言葉があります。「spring」は春、「fever」は熱のことですが、この「spring fever」を辞書で紐解くと、「春の高揚感」という意味の他に「春先の物憂い感じ」という意味も載っています。やはり、矛盾していますよね。また、春先は恋人がほしくなる季節。これに血道を上げ過ぎて仕事や学業が手につかなくなる、という意味も近年では含むこともあるのだとか。欧米諸国ですと、入学や入社の季節は9月であることが多いため、日本の五月病の原因とは異なるものの、“手につかなくなる”ことでは似通っているようです。

実は日本にも、春の物憂げな印象を含む言葉があります。たとえば「春愁(しゅんしゅう)」。春、なんとなくわびしく気持ちがふさぐことを指す言葉です。他にも、若い女性が春の気配に感じて、もの思いにふけったり、恋に嘆くことを指す「春怨(しゅんえん)」という言葉もあります。いずれも現在は日常的に使われませんが、俳句や短歌の世界では、春の季語とみなされています。

春に宿る物憂げな気持ちは、忙しい私達特有の「現代病」かと思っていましたが、昔の人々も複雑な感情を持ちながら、春を過ごしていたようですね。思い起こせば春を代表する桜の花も、華やかなだけでなく“散るはかなさ”も兼ね備えています。


風流な「朧月」の影に「黄砂」あり!?


4月頃に咳が出たりすると、まず疑うのは花粉症。次に寒暖の差による風邪。しかしもうひとつ、咳や目のかゆみなど、アレルギー症状の原因といわれているものがあります。それが黄砂。東アジアのゴビ砂漠やタクラマカン砂漠、黄土地帯などで砂塵が舞い上がり、強風にのって日本にもやってくる気象現象です。

黄砂そのものは、古来から存在が確認されています。中国では紀元前の頃から「塵雨」「雨砂」などと呼ばれており、日本にも飛来していたといいます。

たとえば春によくみられる「霞(かすみ)」も、黄砂が一因になっていると言われているほどです。昼間にみられるのが霞なら、夜は「朧(おぼろ)月」。秋の月はくっきりとした姿が印象的ですが、春の夜の月は、ときおり輪郭がぼんやりと霞んでみえる朧月となります。どちらも風流な趣きがあり、多くの歌人や俳人が歌にしたためていますよね。かの松尾芭蕉は「猫の恋やむとき閨(ねや)の朧月」と詠みました。朧月と、さかりのついた猫の鳴き声。まさに春を詠んだ句です。

黄砂そのものは年中発生していますが、特に顕著なのは偏西風が強まる春。2月から5月にかけてと、ちょうど花粉症の時期に重なっています。現在は周辺諸国と連携し、気象庁が黄砂情報(予測図)を発表していますので、ちょっと咳やくしゃみが出たり、目のかゆみを覚えた時はチェックしてみてはいかがでしょう。黄砂の濃度や総量が多い日には、天気が良くても洗濯物はなるべく室内に干したり、窓をあまり開けないといった対策がおすすめです。