HOME > 生薬百選 > 【2011年4月号】生薬百選 85 胡椒(コショウ)


生薬百選 85 胡椒(コショウ)


とあるラーメン屋にて。

「隣から何やら白っぽい粉が飛んできて…鼻がムズムズ。」
「ハッ、ハッ、ハックショーン 。」

皆さんはこのような経験をなさったことはないでしょうか。
そうです。今回の生薬百選では「胡椒」についてご紹介します。

ご存じのとおり、胡椒は私たちの生活にもっとも馴染みのある香辛料の1つです。「香辛料の王様」と言われる胡椒にまつわる歴史は古く、ヨーロッパでは紀元前400年ごろには既に知られていました。原料となる植物は、古代ギリシャ・ローマ時代では、近種のナガコショウ(Piper longum L.)が胡椒と呼ばれていましたが、中世になると球状の形をした現在のコショウ(Piper nigrum L.)に変わっていきました。その当時、胡椒は食料を長期保存するために不可欠であり、金や銀と同等の価値がありました。そのため、人々が次々と胡椒を求め大海原へ旅立ったことで、大航海時代の幕が開いたとも言われています。


ナガコショウ(ロングペッパー)
ナガコショウ(ロングペッパー)

一方、中国では、唐時代の書籍 「新修本草」に「胡椒の味は辛で大温、無毒である。気を下し、中を温め、痰を去り、臓腑中の風冷を除く。西戎(せいじゅう*1)に生じ、形は鼠李子(そりし*2)の如く、食を整えるのに之を用いる。味は甚だ辛辣(しんらつ)で芳香があるが、蜀椒(しょくしょう*3)に及ばない。」という記述が残っており、昔から生薬、香辛料いずれの使い方もなされていたことがうかがえます。
*1 西戎(せいじゅう):中国の西方にあった胡の国
*2 鼠李子(そりし):クロウメモドキ,黒い実をつける植物
*3 蜀椒(しょくしょう):同じく「椒(辛いという意味)」という文字がつきます。詳しくは、先月号の生薬百選をご覧ください

このような歴史的背景をもつ胡椒ですが、主に東南アジアや南米などの熱帯地域でしか栽培されていないため、日本で生の胡椒をめったに目にする機会はありません。
左下にある写真は胡椒の花です。小さく黄緑色をしているため、少々見難いですが、穂状に垂れ下がっている様子が観察できます。また、この後できる果実は(写真右下)球形で房状に実り、果皮は成熟するに従って緑色から黄色、そして赤色へと変化します。


胡椒の花
胡椒の花
胡椒の果実
胡椒の果実

胡椒の辛味の主成分はピぺリンやチャビシンです。また、精油を1〜2%含み、l-α-フェランドレン、α-ピネン、l-α-リモネンなどからなります。この胡椒の持つ香りや辛味による刺激は胃腸を刺激して、食べ物やその消化物を移動させる、いわゆる“ぜん動運動”を活発にする他、発汗作用があると言われています。

胡椒は果実の色によって、黒胡椒(ブラック・ペッパー)、白胡椒(ホワイト・ペッパー)、緑/青胡椒(グリーン・ペッパー)、赤胡椒(レッド/ピンク・ペッパー)に分けて呼ばれています。全て同じ植物(コショウ)から作ることができますが、別種の植物で代用できるものもあります。以下に、その特徴を簡単に挙げてみました。


黒胡椒 最もよく使われるタイプのものです。未成熟な実を日干ししたものです。果皮に辛味成分が多いため、一般に辛味は強いと言われています。
白胡椒 成熟した実の果皮を取り除き、陰干ししたものです。一般に生薬として利用されるのは白胡椒です。黒胡椒に比べると、香りや辛みはマイルドに感じられます。
緑/青胡椒 未成熟な実を短期間で乾燥、もしくは塩漬けしたものです。黒胡椒や白胡椒よりさわやかな芳香があると言われていますが、辛味はあります。
赤胡椒 成熟した実をそのまま塩漬けにした後、乾燥させたものです。スパイシーな香りとフルーティーな香りが混ざって感じられます。

4種類の胡椒がミックスされたもの
4種類の胡椒がミックスされたもの

[問題]
写真の中にある胡椒(黒胡椒、白胡椒、緑/青胡椒、赤胡椒)のうち、1つだけコショウ科でないものがあります。それは一体どれでしょう?


正解はこちら

このように、一概に胡椒といっても採取する時期や処理の仕方で色や香味が全く異なります。是非、料理によって色々な胡椒を使い分けてみてはいかがでしょうか。


■筒井 康貴 (養命酒中央研究所・商品開発グループ)