HOME > 生薬百選 > 【2009年12月号】生薬百選 69 麻黄(マオウ)


生薬百選 69 麻黄(マオウ)


全国各地で新型インフルエンザが猛威をふるっていますが、困ったことに予防に有効なワクチンが不足している状況です。果たして今年の冬は無事に過ごすことができるのでしょうか? 以前、子供がインフルエンザに感染し、病院で漢方薬を処方されたことがあります。その時は子供も真っ赤な顔でぐったりとしていましたので「えっ,こんな時に漢方ですか?」と正直思いました。実はその時のお薬が麻黄湯(マオウトウ)だったのです。


フタマタマオウ
フタマタマオウ


麻黄湯の主薬である麻黄は中国北部などの砂漠地帯に分布するマオウ科マオウ属 (Ephedra)の植物の地上茎を乾燥した生薬です。右の写真はフタマタマオウというわが国には自生しない植物で、緑色の細い部位は茎、葉は節であまり目立ちませんが、黄色い花を咲かせる見た目はなんとも奇妙な植物です(下の写真を参考)。
麻黄は中国の最初の薬局方ともいうべき「神農本草経」にも収載されており、かぜの初期段階に良く使われる葛根湯にも配合される有名な生薬です。古くから麻黄には発汗作用がある事が知られていましたが、発熱、頭痛、鼻閉、咳嗽、喘息、浮腫、尿量減少、麻痺、しびれなどの症状にも用いられます。麻黄の有効成分であるエフェドリンは、明治時代に日本薬学会の創設者でもあった長井長義博士が麻黄から初めて発見した化合物です。
その後、エフェドリンは副腎髄質ホルモンのアドレナリンに化学構造が似ている事が分かり、その作用もアドレナリン同様、交感神経を興奮させ、気管支喘息の特効薬など様々な用途に使われるようになりました。


退化し鱗片化した葉
退化し鱗片化した葉
黄色い花を咲かせた麻黄
黄色い花を咲かせた麻黄

麻黄湯には麻黄の他に桂皮、杏仁、甘草の4種類の生薬が配合されています。麻黄や桂皮にある発汗・発散作用が病因を追い出し、更に杏仁のもつ鎮咳・去痰作用や甘草の緩和作用が加わることで、インフルエンザのような症状にはよりよい効果を発揮するという事です。驚くべきことに麻黄湯がインフルエンザに対して、抗ウイルス薬のタミフルと同程度の症状軽減効果を示したということが最近報告されました。新型インフルエンザへの効果はまだ分かっていないようですが、タミフルの副作用が大きく報道されたり、タミフルの効かない耐性ウイルスが増える中で、麻黄はこの冬、注目を集める生薬になりそうです。

■ 松見 繁(養命酒中央研究所・基盤研究グループ)