生薬ものしり事典
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- 【2018年5月号】アカシアの名で知られる「ハリエンジュ(ニセアカシア)」
生薬ものしり辞典 68
アカシアの名で知られる「ハリエンジュ(ニセアカシア)」
初夏に雪のような白い花が咲く
初夏に新緑の木々が夏の装いを始める頃、ハリエンジュ(ニセアカシア)の花が咲き始めます。小枝いっぱいに房状に垂れ下がって咲く花の姿は、見事です。それまで緑の葉が勝っていても、この時期だけは雪をかぶったように白色が緑に映える様子がひときわ美しく見えます。
この花は、明治になってから津田仙(現津田塾大学の創始者である津田梅子の親)によって日本に紹介されました。1873年にウィーンで開かれた万国博覧会に派遣された時、ハリエンジュの種子を持ち帰ったとされています。1875年、この種子から生長した苗が東京都・大手町に植えられ、日本初の街路樹となりました。大手町にはそのことを示した石碑も残されています。その後、日本各地にハリエンジュが植えられるようになりました。
日本では一般にハリエンジュのことを「アカシア」と呼んでいますが、エンジュに似て針があることから、植物学上は「ハリエンジュ(針槐樹)」が正式名です。「ニセアカシア」「イヌアカシア」などの別名もあります。
真のアカシア属は、オーストラリア原産の黄色花の灌木です。日本では真のアカシア属の改良品種のことを「ミモザ」「ハナアカシア」などと呼んで区別し、主に切り花に用いています。ロビニー属のハリエンジュが日本でアカシアと呼ばれるようになった由来は、ハリエンジュがアメリカから輸入された当時、単に「アカシア」と呼ばれていたのがそのまま定着してしまったからです。
学名はRobinia pseudoacaciaで、属名はパリ植物園に初めてこの木を植えた17世紀のフランスの植物学者「Robin」の名に由来し、種小名は「pseudo=似ている」の意で、アカシアに似ている植物という意味になります。
輸入されたハリエンジュは最初に北海道に多く植えられたことから、どこか西洋風でエキゾチックな感情を抱く人も多く、詩歌や小説の題材になってきました。北原白秋の童謡『この道』(山田耕作作曲)は、「この道はいつか来た道、ああ、そうだよ、あかしやの花が咲いてる」の歌詞で知られています。白秋はこの歌を郷里の柳川市に咲いていたアカシアと、開拓時の札幌のイメージを重ね合わせて作詞したといわれています。年配の方は西田佐知子が1960年代にヒットさせた水木かおる作詞の歌謡曲『アカシアの雨がやむとき』を思い出されるかもしれません。
あかしやの 花ふり落とす 月は来ぬ 東京の雨 わたくしの雨
アカシアの もとに梢の 花も落つ
ハリエンジュは薬用には用いられませんが、養蜂業者にとっては貴重な蜜源植物です。ハリエンジュの花の天ぷらは、信州ではよく食卓に上る料理です。マメ科植物のため、根粒バクテリアが繁殖して土壌が肥えることから、砂防地や造林に植えられますが、繁殖力が強すぎると嫌われることもあるようです。
花言葉は「優雅」「真実の愛情」です。
出典:牧幸男『植物楽趣』