生薬ものしり事典
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- 【2016年1月号】お屠蘇に欠かせない「白朮(ビャクジュツ)」
生薬ものしり辞典 40
お屠蘇に欠かせない「白朮(ビャクジュツ)」
今回の「生薬ものしり事典」は、過去にご紹介した生薬百選より「白朮(ビャクジュツ)」をピックアップしました。
邪気を払い、整腸や利尿に役立つ生薬
白朮はキク科の「オケラ」または「オオバナオケラ」の根茎です。オケラは雌雄異株で、9~10月頃に写真のような頭花を咲かせます。花の下の総苞(ソウホウ)には、魚の骨のような形の総苞片が見られます。晩秋にオケラの根茎を掘り出して乾燥させたものを白朮といい、特有の芳香があります。
オケラの花
オケラの全景(蝶がとまってます)
オケラは古くから庶民の生活に溶け込んだ山草で、薬草として用いられるほか、雨時の湿気払いやカビ防止に利用されてきました。また、真夏の夜には、白朮をいぶした煙で蚊を追い出すことも行われていたようです。
白朮に対して「蒼朮(ソウジュツ)」という生薬もあります。蒼朮の原植物は「ホソバオケラ」で、白朮と薬効がよく似ているため、双方を合わせて「朮(ジュツ)」と呼ぶこともあります。
白朮の主な成分には、アトラクチロンやジアセチルアトラクチロジオールなどがあります。東洋医学では、白朮には体内の水分の働きを正常に調節する働きがあるとされ、健胃、整腸、止汗、利尿などの目的で使用されます。
白朮は「御屠蘇(おとそ)」の原料としても知られています。御屠蘇は、数種類の生薬が配合された屠蘇散(とそさん)を酒やみりんに浸けこんだ薬酒で、お正月に飲めば、年中の邪気を払い、福寿を招くと言い伝えられています。
中国の千金方(せんきんぽう)という漢方古書には「一人がのめば一家に疫なく、一家が飲めば一里に疫なし」と記載されており、御屠蘇を飲む習慣は中国の唐の時代から始まったといわれています。日本には平安時代の初期に唐から伝来し、はじめは宮中の正月行事に飲まれていましたが、次第に庶民に広まっていきました。
時代とともに屠蘇散に調合される生薬も変化してきました。今日市販されている屠蘇散には、白朮のほかに、桔梗(キキョウ)、山椒(サンショウ)、防風(ボウフウ)、肉桂(ニッケイ)などが用いられていますが、地域や製造元によって調合は異なります。
大晦日から元旦にかけて、京都の「八坂神社」で行われる「おけら祭り」も、この白朮と関わりがあります。参拝者は、神前で焚かれるオケラを加えたかがり火を火縄に移し、消えないようにくるくる回しながら家に持ち帰ります。この火で雑煮を炊き、神棚の灯明に火をともして、新しい一年の無病息災を祈ります。八坂神社の参道である四条通りは、大晦日の夜から翌朝まで歩行者天国となり、大勢の参拝者で埋めつくされます。
このように、御屠蘇やおけら祭りに欠かせない白朮は、お正月を代表する生薬といえるでしょう。