養命酒ライフスタイルマガジン

生薬百選

生薬百選63
牡蛎(ボレイ、カキ)

桜の季節も終わり、英語のスペルで「R」のつかない月(5月 (may), 6月 (june), 7月 (july), 8月 (august))がやって参りました。ところで、この「R」のつかない月と言えば、牡蠣を食べないほうがよいという諺をどこかで耳にしたことはないでしょうか。そこで、今回この牡蠣の話について紹介致します。

岸壁に固着した牡蠣(2009年5月,瀬戸内海にて)
岸壁に固着した牡蠣
(2009年5月,瀬戸内海にて)

牡蠣の身は、別名「海のミルク」と呼ばれるほど栄養豊富であり、タンパク質はもちろん種々のミネラル分や、消化吸収に優れたエネルギー源であるグリコーゲンを多量に含みます。そのため、滋養強壮の作用があると考えられ、マスコミでは風邪予防に適した食べ物としてよく紹介されています。また、水産物としては珍しくビタミンB2も多く含まれています。一方、生薬として用いられる牡蠣はこの身の部分ではなく、貝殻を使用します。この貝殻は炭酸カルシウムに富み、主に、服胸部の動悸、精神不安、不眠、寝汗や、胃酸過多の中和剤として利用されます。

蓋殻を除くと見られる身(体)の部分
蓋殻を除くと見られる身(体)の部分
(体の大部分を被う外套膜と
中心付近に二枚の貝殻の開閉に
関与する貝柱が見られます)

生薬に使われる貝殻
生薬に使われる貝殻
(当所展示品)

ところで、冬場よく私たちが目にする牡蠣のマガキ(Crassostrea gigas)は「R」のつかない月に産卵をむかえ、身は痩せ味が落ち、生殖巣が発達して腐食しやすくなります。そのため冒頭で述べた諺はマガキについては当てはまります。しかし、牡蠣の種類は100種以上もあり、その中にはこの諺があてはまらないものもあります。その一つであるイワガキ(Crassostrea nippona)は逆に産卵前の一番おいしくなる時期となり、これから旬をむかえます。イワガキはマガキより大きくミルキーな味わいで食べ応えがあります。生食は特にお勧めですので、ぜひご賞味あれ!

イワガキ料理(旬は6~8月,レモンより大きな幅です)
イワガキ料理
(旬は6~8月,レモンより大きな幅です)

筒井 康貴(養命酒中央研究所・基盤研究グループ)

京都府出身。じっとできない性格のためか休日になると信州を飛び出し、日本全国あちこち神出鬼没に現れます。そのためか、いつまでたってもお金が貯まりません。