養命酒ライフスタイルマガジン

健康の雑学

散歩とマラソンの雑学の雑学

日本で初めて“健康のための散歩”を実践した人物は?ジョギングに伴う「脇腹の痛み」の理由は?マラソンには靴よりも足袋が向いている?散歩とマラソンにまつわる雑学です。

6kmなんて朝飯前!諭吉先生の『ウォーキングのスゝメ』

なにか特別な目的があるわけではなく、ただ歩いてリフレッシュする…それが今日でいうところの「散歩」ですが、散歩の習慣ができたのは明治に入ってからのこと。江戸時代の庶民は、東京の高尾山や神奈川の大山、果ては富士山、伊勢神宮などに歩いて出かけていましたが、これは信仰を旨とする「お参り」という目的が根底にありました。もしくは、隅田川の岸辺や飛鳥山、御殿山など、「花見」という目的を持って出かける物見遊山ですね。

その一方、目的の伴わない散歩は、どんなに歩きまわっても何の収穫もない“犬の川端歩き”と揶揄される傾向にあったそうです。日々の食い扶持を稼ぐために忙しく働いている庶民からすれば、そのように映るのも致し方なかったかもしれません。

明治時代になると、西洋の文化や習慣が日本に上陸してきました。じつは散歩も、そのひとつ。実際に海外へ渡り、ステッキをついて散歩を楽しむ人を目の当たりにしてきた夏目漱石や、海外の文化に造詣が深かった森鴎外など、東京在住の文豪やインテリ層がまず実践したといわれています。永井荷風は東京中を歩いた経験を『日和下駄』に、国木田独歩は都下の自然散策経験を『武蔵野』にしたためました。こうした“散策記”も、散歩を普及させる一助になったことでしょう。

かの慶應義塾の祖、福澤諭吉もそのひとり。医学にも通じていた福澤先生は、体を動かす3つのことを健康のために日々実践していたといいます。その3つとは「居合(いあい)の鍛錬」「米をつくこと」、そして「散歩」です。晩年になっても続いた散歩は、毎朝の習慣になっていました。広尾、目黒、芝などを巡る1里半(約6km)の道のりを、1時間程かけて歩いていたそうです。

この散歩に「乗った!」とばかりに同伴したのが学生達。彼らは散歩を、普段なかなか交流できない晩年の福澤先生と喋る絶好の機会とみなしました。先生は彼らのことを「散歩党」と名づけ、お喋りをしながらの散歩を楽しみ、「何かお腹に入れておかないと健康によくない」とパンを学生達に分け与えることも日課だったそう。もしかすると福澤諭吉は、「健康」を目的とした散歩を実践した、日本初の人物かもしれません。

ジョギング直後に脇腹が痛くなるのはナゼ?

ジョギングを開始してしばらくすると、脇腹のあたりが痛くなった経験のある方も多いと思います。諸説ありますが、脾臓にその原因があるとも言われています。

ふだんあまり意識しない臓器である脾臓は、腹部の左上、脇腹のあたりに存在しています。その役割は、血液中の赤血球を貯めておくと同時に、古くなった赤血球や血小板を壊したりすること。さらに、“血液をストックしておく保管庫”でもあり、必要に応じて血液の量の調整するという大事な役目も担っています。

ジョギングを始めると、体の中の筋肉や脚が、より多くの血液を求めはじめます。すると、血液の保管庫である脾臓が反応し、自らをギュッと縮めて血液を送り出します。縮む際に痛みを伴うため、「ジョギング開始直後に脇腹が痛くなる」というわけです。

特に顕著に痛くなるのは、食事をした直後にジョギングした場合です。食べ物を消化・吸収するために、食事中から食後にかけて大量の血液が胃や腸に集中しています。そんな状況で走り出すと、今度は筋肉や脚にも大量の血液が必要となるため、脾臓は大わらわ。ギュギュッと縮んで痛みが顕著になります。

「食後すぐの運動はよくない」ということは皆さんご存じだと思いますが、脾臓は痛みをもって、そのことを私たちに教えてくれているといえるでしょう。

マラソンには足袋が向いている!?

現在は誰もがシューズを履いてジョギングやウォーキングを楽しんでいますが、明治の頃、走るといえば「裸足」が定番でした。学校の体育などでも裸足が当たり前。しかし明治30年代に入り、ペスト菌が流行します。衛生面の問題から、裸足で走ることが禁じられるようになりました。そこで重宝されたのが、西洋の「靴」ではなく日本古来の「足袋(たび)」です。

屋内で履く足袋を利用することもあれば、地下足袋で走ることもありました。箱根駅伝やマラソン大会に出るランナーも、裸足感覚で走ることができる足袋を愛用。戦後、1953年にはスポーツブランド「アシックス」の前身であるオニヅカタイガーが「マラソン足袋」を発売。足袋の底をゴムで覆い、紐をつけたその姿かたちは、日本におけるジョギングシューズの原点といえるでしょう。

その後は日進月歩で改良が進みます。足にマメができにくくしたり、ムレを抑えるために通気性も考慮され、さらには中敷、靴底も工夫を凝らしたクッションが施され始めます。軽量化も進み、シューズの進化とともにマラソンの記録もどんどん更新されていきました。

しかしながら昨今、再び「裸足」が注目を集めています。靴が進化を遂げる一方で足そのものの強さは昔の人に比べて弱くなってきているといわれており、健康教育の一環として裸足で体育を実践する幼稚園も登場してきました。

子どもたちのみならず、ランナー達の間でも、「ケガが多いのは、足が過保護になっているから」と考える向きも多く、ここ数年は各スポーツブランドがこぞって「裸足感覚」のシューズを発売。中には5本指に分かれたシューズまであるそうです。アシックスも、オニヅカタイガーの「マラソン足袋」を現代風にアレンジしたシューズを2011年に発売しました。健康を考え、シューズそのものが原点回帰しているのかもしれません。