養命酒ライフスタイルマガジン

研究員のウンチク

クスノキから香り成分を取り出す
懐かしい「あの香り」を再現しました。

ヒノキの風呂からは爽やかなヒノキの香りが、白檀で作った仏具からはお香の香りがするように、木は様々な香りを持っています。その中でもクスノキは特有な香りを持っており、その香り成分は我々の生活の中で利用されています。今回は実験室でクスノキから香りの成分である樟脳を取り出す話です。

樟脳は、筋肉痛にも効く!?

20数年前、学生実験でクスノキから水蒸気蒸留で樟脳を抽出したことを思い出し、その装置を組み上げてみました。中央のフラスコにクスノキの枝や葉を入れ、水蒸気発生装置とフラスコを加熱すると、冷却管で冷やされて受器に蒸留液とともに樟脳が得られます。

樟脳はご存知のように、防虫剤として用いられており、写真(下)のような分子構造をしています。また、かつてはセルロイドの可塑剤として大量に使用されていました。医薬品として日本薬局方にも収載されており、筋肉痛、打撲、捻挫に対し、血行の改善、消炎、鎮痛の目的で外用されています。

防虫剤として用いられる樟脳

樟脳のニオイは、強い刺すような香りですが、年輩の方には昔のタンスのニオイといった方がお分かりになるでしょうか。
このような香りの成分はガスクロマトグラフという分析機器で分析します。いろいろな香りの成分の混合物である試料を試料注入装置から注入すると、分析カラムの中を通過する速さが成分によって異なるため、分離されてカラムから出てきます。それを電気信号として検出することによって、下図のように香り成分がピークとなった分析結果が得られます。

なお、このガスクロマトグラフ装置は、電気信号として検出する他に、分離された香りの成分を嗅ぐことができます。電気信号だけではどんな香りなのかわかりませんし、電気信号が大きくても、香りが強いとは限りません。そこでヒトの「鼻」をセンサーとして利用するのです。この装置を用いれば、全体の香りに強く影響している成分を見つけ出すことができます。

このように科学の発達した現代でも、ヒトの感覚を用いて分析することがあります。ここに研究の泥臭さを感じると共に、ちょっと微笑ましく思ってしまう私はやっぱりオタクでしょうか。

浜崎 健二郎(養命酒中央研究所・主任研究員)