養命酒ライフスタイルマガジン

研究員のウンチク

春の食材とアク
「アク」の、なるほど!ザ・ワールド。

アクは春の食材たちの知恵だった?

春といえば山菜の季節です。フキノトウや菜の花がほろ苦いように、多くの山菜は苦味やえぐ味などを持っています。苦味は医薬品の苦味健胃薬と同じく、味覚を刺激して唾液、胃液、膵液の分泌を高め、また胃の運動を亢進させる働きがあります。そうはいってもおいしく食べられることが基本ですので、山菜を食べるには適度なアク抜きが必要です。野菜大好きなウサギでも山菜を好まないように、動物達は山菜のもつ苦味やえぐ味を嫌うようです。この不快な味の成分のことを我々は「アク」と呼びますが、山菜にとってみれば、動物から自分の身を守るための大切な成分なのです。

不快な味の成分、アクの語源は「悪」から。

広辞苑で「アク」を調べてみますと、第一項に「灰を水に浸して取った上澄みの水」と記されています。もともと「アク」はアク抜きに用いる水(以下 灰汁上澄液)のことだったのです。その後除かれる不快な味の成分の方を悪の代名詞のように「アク」と呼ぶようになりました。また、肉などの煮汁の表面に浮かぶ泡のかたまりも、料理の味を損なうやっかいものとして同様に「アク」と呼ばれています。もっともこの「アク」はタンパク質と脂質との混合物で、山菜の「アク」とは明らかに別物です。

食材には、それぞれ好適なアク抜きがある。

「アク」の成分は、シュウ酸、タンニン類、ポリフェノール類など様々ですが、苦味、えぐ味、渋味などの不快な味を持っていたり、変色を早めるなどの人間にとって都合の悪い成分という点で共通しています。アク抜きに用いる液は、食材によって使い分けられており、例えば、ワラビ、ゼンマイは灰汁上澄液や今では重曹を溶かした液を用い、ウド、ゴボウ、ジャガイモは水、タケノコは米ぬかや米のとぎ汁が使われます。タケノコの場合には米ぬかを使用すると水の10倍以上の効果があったという報告があります。

理にかなってこそ、伝統的な調理方法。

ワラビは山菜おこわ、山菜そばの中に必ず入っている食材です。これにはプタキロサイドという発癌成分が含まれていることが知られています。牛にワラビを与えると中毒症状があらわれ、後に腫瘍が見られたことから研究され発見されました。しかし毎年キノコ中毒が問題になってもワラビ中毒が問題とならないのは、アク抜きが大いに関係しています。ワラビ中の発癌成分プタキロサイドは、伝統的なアク抜き法により分解し無毒化することがわかっています。これによりワラビを1度にトラック1杯分食べないと発癌しないと言われている程です。このように「アク抜き」という伝統的な調理方法も調べてみると、理にかなっているということがわかります。