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  • 【2014年11月号】 きのこ博士に訊いた不思議なきのこワールド!~きのこを探してみよう&育ててみよう~

きのこ博士に訊いた不思議なきのこワールド!~きのこを探してみよう&育ててみよう~

秋の風物詩のひとつであるきのこ。古来より食用や薬用として活用されつつ、いまだ多くの謎に包まれているきのこについて、国立科学博物館の“きのこ博士”を取材し、博士のナビで筑波実験植物園に潜むきのこ調査にも潜入しました!さらに、きのこ栽培キットで育てたシイタケ、キクラゲ、エリンギの実録レポートもお届け!

知っているようで知らない きのこの謎!

きのこって何の仲間? 世界中に何種類ほどあるの? 毒きのこの見分け方は?——きのこ博士にあれこれ教えていただきました。

きのこ博士
保坂 健太郎先生

国立科学博物館 植物研究部 菌類・藻類研究グループ研究員。アメリカ・オレゴン州立大学植物・植物病理学科博士課程修了。日本および世界各地から菌類を採集し、その進化系統や多様性などを研究。筑波実験植物園で例年開催されている「きのこ展」では“きのこ博士”として活躍。

きのこがデザインされたオリジナルTシャツを愛用。バックに描かれているのは「きのこの女王」の異名も持つキヌガサダケ。

1.「きのこ」という生物学的な分類はない?!

「きのこ」とは実は俗称で、「きのこ属」とか「きのこ科」といった正式な分類があるわけではありません。一般的に「きのこ」と呼ばれるのは、生物学的には「子実体(しじつたい)」という胞子を作り出すための器官で、体の一部に過ぎません。きのこは植物ではなく菌類の仲間ですが、本体である「菌糸」は地中などに張りめぐらされていて見えません。しかし、気温や水分量の変化など、何らかの刺激やストレスがかかると、菌糸から子実体が出現し、そこで胞子がつくられて繁殖します。この時、子実体の大きさに何ミリ以上といった明確な定義はなく、肉眼で見えればとりあえず「きのこ」と呼んでOKなのだそう。

2.地球上には正体不明のきのこがうじゃうじゃ?!

名前がちゃんと付いているきのこは、世界に約2万種、日本に約3千種もあるといわれています。ただ、それらは地球上に実在するきのこの総種数のわずか1割にも満たないのだとか。植物も動物も8~9割は名前が付いていて解明されていることを考えると、いかにきのこの世界がミステリアスかがよくわかりますね。地球上には150万種以上の菌類があるといわれる中、名前の付いている菌類はその約15分の1に過ぎず、残りは全て未知の菌類です。毎年、世界中できのこを含む新種の菌類が千種以上も発見されているそうですが、千年経っても全ての菌類を解明しきれない計算になります。保坂先生も年間通して筑波実験植物園内のきのこを毎週調査しているそうですが、調査すればするほど謎のきのこが見つかるのだとか!

3.きのこ=秋と思ったら大間違い!

きのこは秋の季語にもなっており、日本では「きのこといえば秋」と思われがちですが、実際は1年中生えます。特に梅雨から夏にかけては大型のきのこがゴロゴロ生えます。秋雨前線が近付く前はむしろ少なく、秋の長雨時期を境にまた増えるそう。といっても台風で水浸しになってしまうときのこも生えにくいようです。また、雪の中で生えるきのこもある一方、砂漠に繁殖するきのこもあるといい、きのこは秋の森だけのものでは決してないのです。

4.日本で人気のきのこも海外では不人気?

マツタケ

ポルチーニ

なめこ汁やなめこおろしなど、なめこは和食に欠かせませんが、日本以外のアジアの国々や欧米の食文化圏では、ぬめぬめしたきのこは嫌われがち。ぬめりの多い食用きのこについて、日本の図鑑には「独特のぬめりを生かした料理が美味しい」などと書かれていますが、欧米の図鑑には「食用にする際はぬめりを除去する」と正反対のことが書かれています。

日本では大人気のマツタケも、やはり欧米の図鑑には「臭みがあるので食用には適さない」などと書かれています。ただ近年は、マツタケの採れるアメリカの西海岸などでは、日本に食用に輸出されていることから、「実は食べると美味しい」と現地でも人気が高いようです。
ちなみに、イタリアのマツタケと称されるポルチーニ(ヤマドリタケ)は、イグチと呼ばれるきのこの仲間です。輸入ポルチーニが人気の一方、実は日本各地で昔からポルチーニが採れることはあまり知られていません。

5.図鑑を見れば毒きのこも見分けられる?

「きのこ」という呼び名と同様、「毒きのこ」も俗称で、正式な生物学的分類ではありません。きのこの中で、実際に食べて死に至るような猛毒のきのこの割合はさほど多くありませんが、それでも毎年、毒きのこによる死者が出ているので注意が必要です。ただ、きのこの見分け方は非常に難しく、きのこ初心者が、実物のきのこと図鑑の写真を見比べて「多分コレはこのきのこだろう」と推理しても、まったく別種のきのこであることがほとんどだそう。仮によく知っている食用きのこに酷似していても、ひょっとすると毒がある近縁種かもしれません。きのこ狩りでいかにも美味しそうなきのこを見つけても、くれぐれも素人判断だけで大量に食べたりしないようにしましょう。

きのこ博士保坂先生のお好きなきのこは?

「きのこが多くの人を魅了するのは、何もなかった所に突然ニュッと登場するような驚きを伴う感覚でしょうか。実際は何もないわけではなく、見えない所で菌糸が育っているわけですが。きのこのことを知れば知るほど、未知のきのこを食べるのはコワいですね。私の好物はシメジの仲間のハタケシメジです。その名の通り、畑の側などに生える美味いきのこです。ただ、きのこの菌糸は地中の成分を吸収しやすいので、大気や土などが汚染されていないきれいな環境で育ったきのこを選びたいですね」

きのこ博士と筑波実験植物園できのこ探索!

きのこは山里だけでなく、都会の公園などにも自生しているそう。多様な植生環境が再現されている筑波実験植物園にも、1年を通して各種きのこが生えるというので、保坂先生と一緒にいざきのこ探しに!

筑波実験植物園

散策開始3分で毒きのこに遭遇!!

保坂先生がイボテングタケを発見!(※園内のきのこは通常は採取禁止です)

園内の「高地性低木林」の区画に入ってすぐ、イボテングタケを発見!取材時にはかなり干からびていましたが、2週間前には巨大なイボイボのカサを膨らませて大量に生えていたそう。香りもよく、食べると美味といわれていますが、お腹を壊したり、大量に食べると命を落とす危険もあるコワい毒きのこです。イボテングタケはマツタケやポルチーニ茸と同じく栽培できない「菌根菌(きんこんきん)」の仲間で、近くにあるマツなどの針葉樹と地下でつながって、互いに栄養をやり取りしながら共生しています。

ちょっと干からびてしまっていますが、食欲をそそる清々しい香りが!

2週間ほど前に大発生した時には、こんなにぷっくり。

薬用きのこを発見!

食用には適していないカワラタケ。

同じ高地性低木林の一角で木の幹に群がるように生えたカワラタケを発見!クレスチンという免疫力を高める制がん物質が含まれているという説もある薬用きのこの一種です。

サルノコシカケはカッチカチ

朽ち木にひっそり、チャカイガラタケとコフキサルノコシカケを発見! カイガラタケは公園などでもよく見られます。コフキサルノコシカケはセラミックのような手触り。まさに猿が腰かけられる安定感!

貝殻の模様のチャカイガラタケ。

茶色い胞子が周囲にうっすらかかったコフキサルノコシカケ。

枯れ葉の下も要チェック

枯れ葉や腐葉土をうっすらかぶったアイバシロハツやヒビワレシロハツを発見! きのこは地面から生えるので、マツタケ採りの名人などは枯れ葉のちょっとした盛り上がりも見逃さないのだとか。

アイバシロハツ

ヒビワレシロハツ

毒々しいけど美味しいタマゴタケ

取材時には残念ながら生えていませんでしたが、「冷温帯落葉広葉樹林」の区画では、ブナやミズナラの下に巨大なタマゴタケがよく大量発生するそう。

一見毒々しいけれど、実は美味な食用きのこタマゴタケ。(国立科学博物館筑波実験植物園提供)

地表に現れたばかりの幼いタマゴタケ(幼菌)がプリティ!(国立科学博物館筑波実験植物園提供)

地面からにょっきりカニのツメ?!

見た目はまさにカニのツメみたいですが、先っぽの黒い部分にはハエなどに運んでもらうためにネトネトした胞子の塊が付いているため、ハエの好む腐臭がほんのり…。

熱帯雨林を再現した温室には、あまり大きなきのこは生えないそう。温室の腐葉土の上に小さなサンコタケを発見!

きのこを上手に見つけるワンポイントアドバイス!

植物園内を歩きながら、次々にきのこを見つけていく保坂先生。「秋の長雨時期の後ならもっとたくさんきのこが生えています。きのこを上手に見つけるには、スギ、ヒノキの森より、シイ、カシ、ブナ、モミ、マツの森に行くのがおすすめ。大きな森である必要はなく、ドングリや松ぼっくりの落ちている公園や神社の境内などに行けば、都会でもいろいろなきのこが見つかります」。ぜひお試しを!

きのこ栽培にチャレンジ!

食用きのこの栽培キットを使えば、自宅でも簡単にきのこを育てることができるってご存知ですか? 元気通信編集部でも早速、チャレンジしてみました!

イラスト

step1:栽培キットをセット!

栽培が比較的簡単といわれるシイタケと、どうやってニョキニョキ増殖するのか興味深いキクラゲとエリンギの3つの栽培をスタート!

シイタケ

シイタケ1

栽培ブロックを水に浸した後、栽培袋に入れて、霧吹きで毎日表面を湿らせます。見た目はチョコレートのロールケーキのよう。ほんのりシイタケの匂いが…。

キクラゲ

キクラゲ1

栽培ブロックをビニール袋に入れたまま、カッターナイフで袋に5カ所ほど縦に切れ目を入れ、毎日その切れ目に霧吹きで水を噴き付けます。見た目はカマンベールチーズのよう。

エリンギ

エリンギ1

栽培ブロックを水に浸した後、栽培袋に入れて、霧吹きで毎日表面を湿らせます。ナッツのついたロールケーキのよう…。

step2:発芽!

約2週間したところで、シイタケとキクラゲから発芽!

シイタケ

シイタケ2

発芽した小さな芽の中から太い柄が急にニューッと伸びてきました!

キクラゲ

キクラゲ2

切れ目を入れた所から、プチプチと小さな芽が出てきました!

エリンギ

エリンギ2

白い菌糸にびっしり覆われてきたけれど、まだ発芽しません…。

step3:じわじわ成長

さらに10日ほどの間に、発芽した芽が日に日に大きく成長!

シイタケ

シイタケ3

数カ所の芽から伸びてきた柄の先に、大きな傘が出現!

キクラゲ

キクラゲ3

切れ目から出てきた芽がヒラヒラと増殖!

エリンギ

※エリンギだけはSTEP2から変化なし。まだ発芽の兆しがありません…。

step4:目指せ収穫!

まだ栽培中ですが、最終目標はこの状態!

シイタケ

シイタケ4

キクラゲ

キクラゲ4

エリンギ

エリンギ4

きのこ観察は楽しい!

栽培は9月~10月に実施しましたが、栽培キットによって生育環境の諸条件などは異なります。朝晩10℃ほどの気温差(15℃~25℃)と適度な湿り気を保ち、酸欠にならないようにすることや、直射日光を避けることなどが必要です。発芽するまではじっと忍耐ですが、発芽したとたん、みるみるきのこが育っていく様子を観察するのはてとも楽しいものです。ぜひチャレンジを!

きのこは食べるだけでなく、身近な公園などできのこ散策をしたり、自宅で栽培してみたりすると、「こんな所にきのこが…!」「いつも食べているきのこって、実はこんな風に育っていたんだ!」と新たな発見があり、その生態のおもしろさを実感できます。この秋、いろいろなきのことの触れあってみてください。

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