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“くさい”は偉い!!発酵食品のチカラ

納豆やチーズ、キムチなど、世界各国の発酵食品の中には「くさい!」と感じるものが多くあります。そのにおいが苦手ゆえに、「これだけは食べられない」と見なして食わず嫌いになっている方もいらっしゃると思います。

しかし、多くの発酵食品が抜群の栄養価を誇っているのもまた事実。発酵段階で独特のにおいが生じると同時に、元の食品に含まれる成分が変化して、極めて栄養価の高い食品に生まれ変わるからです。

今月は「くさいは偉い!」をテーマに掲げ、深淵なる発酵食品の世界を垣間見てみましょう。

世界の「くさい食べ物」に挑戦!
体験レポート【前編】
くさい度世界第2位 強烈なアンモニア臭が鼻を襲う! 韓国の「ホンオフェ」

世界には、知られざる発酵食品がたくさんあります。日本の納豆やクサヤもかなりのにおいを発する食品ですが、これらが“足元にも及ばない”と噂されるほどの食品があるのをご存じでしょうか?そんな“世界最高峰のにおい”といえる発酵食品を、編集部員が実際に食べてみました。

編集部員のKです。くさいものは全然平気、むしろ好んで食べることから今回の大役を仰せつかりました。まずは「世界で二番目にくさい」と言われる、韓国の「ホンオフェ」に挑戦します。「ホンオ」はエイ、「フェ」は生肉のこと。エイの一種「ガンギエイ」のお刺身なのですが、エイは壺などに入れて10日間ほど保存した状態のものを使います。その間、発酵が進んで強烈なアンモニアのにおいを発するようになるのだとか…。

ホンオフェを提供している韓国料理店が東京・高田馬場にあるということで、さっそくやってきました。メニューをみて、刺身が7切れ程度お皿に乗っている「小」サイズ(1,000円)を注文。「大」(2,000円)を頼む勇気はありません!期待と不安でドキドキしながら待つこと10分、ついにホンオフェと初対面の時を迎えました。

お皿が運ばれてきた瞬間、少しだけプーンと独特なにおいが立ち込めたものの、それほどではありません。見た目もかなり美味しそうな白身。酢味噌をつけて、さっそく口に運んでみると…あれ?それほどくさくない。ただ、通常のお刺身と比べて身が硬いので、口の中で噛むこと20回…だんだんとアンモニア臭が強まってきました!同時に口の中がピリピリとし始め、なんだか口の中が熱くなってきました。ちょっと怖くなったので、すかさずゴクリと飲み込んで、韓国の“どぶろく”といわれるマッコリを飲み干します。やさしい味のマッコリとはよく合いますね。

しかし、驚くほどのにおいではありません。おかしいな?食べた方のレポートなどをみていると「涙が止まらない」という記述もありましたから、その意味ではちょっと拍子抜けです。試しに、お刺身に鼻を近づけてみたところ…

「うっ!!」

強烈なにおいが鼻を急襲!!一瞬にして、学生時代の理科室が脳裏に浮かぶくらいのツンとしたアンモニア臭です。通常、におう食べ物は目の前に置かれた時点で、そのにおいが拡散して鼻をつきますが、ホンオフェの場合は“においの飛距離が短い”といいますか、よほど鼻を近づけないと、その強烈なにおいが体感できない。こんな食べ物、初めてです。そして2切れ目のお刺身を食べると、先程は20回噛んで「来た!」と感じたところが、今度は10回くらい噛んだところで「来た!」。体がにおいを覚えてしまったんでしょうか?ちょっともう、ギブアップ寸前です…。

でもなんとか平らげて「すごいですね、ホンオフェ!」と店員の韓国人女性に告げたところ、興味深いお話が聞けました。

「韓国の北西部、霊光(ヨングァン)郡がホンオの本場です。日本に“ふぐ専門店”があるように、霊光にもたくさんの“ホンオ専門店”があるんですよ。当店のホンオフェは、日本の方に韓国の伝統料理を知ってもらう意味で出していますが、においは本場のホンオが10だとしたら、当店のは5くらいに抑えています。韓国人でも“これは勘弁”という方もたくさんいます。実は私もその一人です(笑)。でも韓国では高級料理として知られていて、結婚式など晴れの舞台で出すこともあります。アルカリ性の発酵食品で、健康や美容にもいいんですよ」

本場だと、今回の倍の凄さなんだ!!いやはや、驚きました。いつの日か、本場のホンオフェを“1回でいいから”体験してみたいです。

「世界第2位」にしてこの強烈さ!「世界第1位」は一体……
体験レポートの【後編】は、本ページの最後で!!

発酵食品のヒミツ!
発酵パワーで栄養価ワンランクUP!

上に挙げた「ホンオフェ」も、味噌やチーズ等と同じく発酵食品の仲間です。そもそも「発酵」とは何なのか?簡単に言うと、ある特定の食品が、さまざまな微生物の働きによって別の食べ物になることを指します。小麦に酵母が働いてパンに、大豆に納豆菌が働いて納豆に変わるように、味もにおいもガラリと一変するだけでなく、栄養価にも変化がみられます。時には栄養価がワンランク上にアップしたり、発酵によってまったく新しい栄養素が生じるといったこともあるほどです。

一体どんな変化が生まれ、どのような効能を持つに至るのか。“におう”発酵食品を中心にご紹介します。

牛乳⇒チーズ
~カルシウムが約6倍に~

牛や羊の乳を酵素(レンネット)で凝固させて、水気を抜いてから乳酸菌や酵母、カビなどで発酵させたものがチーズ。市販されているプロセスチーズの場合、牛乳の約6倍のカルシウムを含むようになります。「粉チーズ」に使用されるパルメザンチーズの場合は、さらに上を行く牛乳の約12倍!美肌づくりに欠かせないビタミンAやビタミンBも豊富です。

牛乳⇒ヨーグルト~アミノ酸が約3倍に~

牛や羊の乳に乳酸菌や酵母を混ぜて発酵させて作ります。カルシウムの含有量は牛乳に比べると減りますが、アミノ酸は約3倍にアップ。アミノ酸は、免疫システムの機能を高めるため風邪などの感染症にかかりにくくなり、筋肉を作るタンパク質の元となるため、代謝を高めて疲れを感じにくくする作用が期待できます。整腸作用を促す乳酸菌も豊富です。

魚⇒クサヤ~塩分が減り、ナイアシンが豊富に~

魚を「クサヤ液」に浸し、天日で干して出来上がるクサヤ。クサヤ液は何代にもわたって繰り返し魚を浸しているため、魚の成分が溶け出して乳酸発酵が進んでいます。通常の魚の干物に比べて塩分も抑えられ、カルシウムの含有量が大幅にアップ。さらに体内のアルコールを分解するナイアシンも増えるので、お酒の肴としては最適です。

白菜等の野菜⇒キムチ~ビタミンB12を新たに生成~

白菜やニラなどの野菜に塩や唐辛子を混ぜ、乳酸菌で発酵させた韓国原産の漬物。通常、野菜には含まれないビタミンB12を含むようになります。このビタミンが不足すると、赤血球の再生がうまくいかなくなり、貧血症状や息切れ、肩こりや腰痛に陥りやすくなります。その他、唐辛子に含まれるカプサイシンが血行を促進させます。

上記に挙げた栄養価の向上以外にも、発酵食品のメリットはあります。まずは長期保存できること。紀元前から現在に至るまで、脈々と発酵食品の歴史が続いているのは、ひとえに日持ちする便利な食品だったからでしょう。牛乳なら数日で腐敗するところが、チーズにすれば格段と日持ちするようになります。ヨーグルトにしても、乳酸菌が乳酸を生み出し、酸性度が高まることによって他の雑菌を寄せ付けなくなります。

そしてもうひとつが、独特のにおい・風味を持つようになること。発酵過程で旨みの元となるアミノ酸も生じます。独特ではありますが、欧米人ならチーズにパン、ヨーグルト、日本人なら味噌汁に醤油、納豆といったように、生活の中に当たり前のように溶け込んでいるものも少なくありません。食品における「くさい」は、れっきとしたひとつの文化といえるでしょう。

発酵食品のヒミツ!
「発酵」「腐敗」「熟成」の違いとは?

発酵食品が持つ独特のにおいは、微生物の代謝によって生まれます。微生物といっても生き物ですから、「栄養を摂り入れては体内で分解し、排出する」という基本は同じ。この排出されたものが独特のにおいを発し、元の食品のにおいと相まって、「発酵食品のにおい」となるわけです。くさいものもあれば、かつお節やパンのように心地よい香りがするものもあります。

ただ、ひとえに“くさい”といっても、発酵食品と腐敗した食品では、においの要素が異なってきます。発酵は、糖類が分解されて乳酸やアルコールなどが生じている状態のこと。腐敗は、タンパク質やアミノ酸等が分解され、硫化水素やアンモニアなどを発している状態を指します。

発酵も腐敗も「微生物が作用する」という点では同じ。また「この微生物が作用すれば必ず発酵」といった限定もできません。たとえば乳酸菌は、牛乳に作用してヨーグルトにもなりますが、日本酒に作用すると“火落ち”と呼ばれる失敗(腐敗)となり、白く濁って臭みを帯びてしまいます。

では、何が発酵と腐敗を分ける決め手になるのか?それは「人間にとって有益か、有害か」の違いのみといえます。人間が意図的につくりあげ、体に有益なものとなれば「発酵」、そうでなければ「腐敗」という、至ってシンプルな定義です。

ちなみに「熟成」という言葉もよく耳にしますが、これは微生物の作用ではなく、魚や肉などの成分が酵素の作用によって分解されて、さらに旨味が増す状態のことを指します。お肉の場合、肉そのものが持っている酵素の働きによって、まず筋肉が柔らかくなります。その後、タンパク質が分解されて、旨み成分といわれるアミノ酸が増えていくことになります。よく「お肉は腐りかけが美味い」といいますが、厳密にいうならば「アミノ酸が豊富な、熟成の最終段階が美味い」ということですね。“腐りかけ”を食べてはお腹を壊してしまいかねません。

また、「発酵・熟成」という場合は、一般的に「発酵を終えた後も、寝かせて熟成させる」意味です。たとえばワインやウイスキーは、発酵によって生まれた原酒を、樽に詰めて熟成させます。熟成させる年月によっても風味が変わってくるのに加え、貯蔵庫の立地(寒冷地か温暖地か)、室温、樽に使われる木材の種類などにも風味は左右されます。熟成加減によって、ひとつの原酒から無限のバリエーションが生まれるというわけです。

コラム)発酵・熟成の賜物「熟れ寿司」

江戸前の握り寿司が出現する以前から全国各地で育まれてきた「熟れ寿司」も、発酵・熟成させることによって生まれる発酵食品です。作り方は至ってシンプル。魚を塩で漬けたのち、米飯に混ぜいれて樽などで保存して、まずは発酵を促します。発酵を終えた後、長期保存すればするほど濃厚な風味が増し、中には10年モノの熟れ寿司もあるほど。“魚が腐らない不思議”を感じずにはいられません。香りはブルーチーズに似て、味は乳酸菌発酵によって独特の酸味を持ち合わせています。好みが分かれるところですが、発酵の過程でビタミンB群が生み出され、栄養も満点です。

発酵食品のヒミツ!
“くさい”エリート食品、納豆の底ヂカラ!!

日本が誇る発酵食品といえば、納豆。ネバネバと糸を引き、独特のにおいを醸す納豆は、熱烈なファンがいる一方で「納豆だけはダメ」と敬遠する人もいます。

よく「昔の納豆は今よりもくさかった」と耳にしますが、昔は稲わらにたくさん付着している納豆菌を使って発酵させていました。煮た大豆を稲わらに包んで天然発酵させ、そのまま売る「藁苞(わらづと)納豆」です。一方、現在は人工的に抽出した納豆菌を煮豆に加えて作られています。

ちなみに昨今は“におわない”ことを売りにした商品もたくさん出ています。においが弱く仕上がる種類の納豆菌を選りすぐって使うことによって生まれた商品です。ただし栄養成分は、においの強弱に関係ないといわれています。その栄養パワーについてご紹介しましょう。

血栓を溶かす

納豆に含まれる酵素「ナットウキナーゼ」が、血しょう中の血栓を溶かす効果を促進するといわれています。脳梗塞や心筋梗塞などの予防に効果が期待できます。

骨を丈夫にする

大豆の段階では存在しなかったビタミンK2が納豆菌によって生成され、動脈硬化の一因となるカルシウムの血管沈着を防ぐとともに、骨を丈夫にする効果が期待できます。カルシウムも豊富です。

整腸作用を促す

納豆は食物繊維も豊富。便秘を防ぐとともに、腸の機能を正常に保ちます。納豆1パックにつき、およそにんじん1本分の食物繊維が含まれています。

血行を促す

肩こりや冷えにお悩みの方にとって必要不可欠な、血の巡りを促すビタミンEが豊富。納豆1パックにつきトマト1/2個分のビタミンEが含まれています。

エネルギー補充

筋肉を作り、体の重要なエネルギー源となるタンパク質。大豆にも多く含まれていますが、納豆を作る段階で分解が促され、より消化吸収がよくなっています。

「くさいから食べない」と一言で片づけるにはもったいないほどの栄養パワーが備わる納豆。苦手な方は、まず“におわない”納豆にチャレンジして、食生活に取り入れてみてはいかがしょう。

コラム)納豆をたくさん食べる地域は、骨折する人が少ない!?

過去に厚生省が実施した「大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)骨折全国頻度調査」によると、男女ともに骨折発生患者が少ないのは東北地方や北関東、逆に多いのは近畿、中国、四国、南九州という結果が導かれました。2008年の納豆消費量調査(総務省家計調査より)をみると、1世帯あたり消費量1位は福島県の6480円。2位が「水戸納豆」のお膝元、茨城県。総じて北関東から東北にかけて消費量が多く、関西は関東に比べて約半分の消費量となっています。もしかすると、骨を丈夫にする納豆パワーが骨折率と結びついているかもしれません。

世界の「くさい食べ物」に挑戦!
体験レポート【後編】
くさい度世界第1位 世界最高峰のにおいに絶句!!スウェーデンの「シュールストレミング」

「本場の半分のにおい」ではありますが、世界第2位のくささといわれるホンオフェを平らげた私は、登山家のように“さらに高い山”を目指します。テレビや雑誌などにも度々登場しているので、その名を聞いたことのある方もいらっしゃると思いますが、スウェーデン産の缶詰「シュールストレミング」に挑戦です!!

「シュールストレミング」は、樽の中でニシンを塩漬けにして2か月ほど発酵させたもの。ただし、発酵の途中で缶に密封しているところがポイント。缶の中でもどんどん発酵が進み、世界第1位といわれるくささが備わるとのことです。

今回は、インターネット通販で入手しました。基本的に、気圧の変化が激しい空輸は缶が暴発してにおいが拡散する恐れがあるため、船舶でしか輸入できません。さらに販売サイトには「室内ではなく、屋外で食べること」「服に汁が付着するとにおいが取れないため、捨てても構わない服装で缶を開けるように」「缶を開ける時、風下に人がいないか確認すること」などの怖い但し書きが…。

はやく食べきってしまいたい…その一心で“缶を開ける日”を早々に設定したのですが、最初の予定日は雨。次の予定日は雪。そうこうしているうちに缶詰で発酵が進んでガスがたまり、缶がゆっくりと膨らんできました。怖すぎる!!缶が膨らまないうちに食べるのがベストなのですが、いかんせんお天気には勝てません。ようやく晴れてくれたのは翌々日のこと。東京・多摩川の河川敷で、いざ開缶です。

缶を開ける際に汁が飛び散らないよう、まず二重にしたビニール袋の中に缶詰を入れます。そして、缶切りも一緒にビニールの中へ。ビニールの外側から缶切りを掴み、缶にあてがって…プシュッ!!音はしたものの、汁の飛び散りはなく一安心。ただ、開けた瞬間からほのかににおいが漂ってきました。立ち会った仲間たちと「誰か、オナラしたでしょ?」と軽口を叩きながらビニールから取り出した瞬間…

「ぐぁあああ!」

強烈な硫黄臭と…何か得体のしれないにおい。これを口の中に…入れられる…のか!?でも食べないと始まらないということで、本場の習慣に倣い、まずはニシンの身をウォッカで洗います。そして、かなり塩辛いのでパンやプレーン味のクラッカーに乗せ、レタスやマッシュポテトと合わせます。パンに乗ったシュールストレミングと見つめ合うこと20秒、クサヤでもそうだけど、こういったものは口に入れるとにおいをあまり感じなくて、美味しいものなんだと自分に言い聞かせ、パクリ……くさい!!脳が震えるほどのくささ!!硫黄臭が立ち込める草津温泉の「湯畑」や、箱根の「大涌谷」を丸ごと口に入れた気分です(精一杯、品のある表現をしています)。

多摩川の河原で奇声を発したり、えずいたりしながら挑戦を続け、私はなんとか2切れ食べることができました。お寿司2カン分くらいの量です。ホンオフェはなんとか食べられましたが、シュールストレミングはケタが違いました。立ち会った人の中には、「絶対無理!」と口にできない人もいたほどです。本場スウェーデンの場合、苦手な人もいるようですが「やみつき」になっている人もいるのだとか。くさい発酵食品の深遠なる世界…皆様も一度、体験してみませんか?(私はもう結構です)