養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 103
欧州では骨折や傷の薬に用いられた「ヒナギク」

デイジーの英名でも知られる愛らしい花

ヒナギクは、春の花壇を飾る花として親しまれています。小型の多年草で、へら状の毛をまとった葉を根元から出し、葉の間から10cm程度の花茎を伸ばして先端に直径約2cmの花をつけます。花は一重と八重があり、舌状花の花色は白く、外側が淡紅色、管状花は黄色です。最近は紅色、紫紅色、濃紅色の品種や、大型に改良された品種も見られます。

一般にはヒナギクの呼び名より、英名のデイジーの名で呼ばれています。英名は「Day’s eye(日の目)」が語源で、花の形が太陽に似ていることや、陽光が当たると花が開き、曇った日や夜には花を閉じることに由来します。Daisyの名が付いた植物はほかにもいくつかあるため、ヒナギクを指す場合は「English daisy」「True daisy」と呼んで区別されています。

ヒナギク

ヒナギクという日本名の由来は、かわいらしい花姿にちなんでおり、漢字では「雛菊」と書きます。

花期が長いことから、「長命菊」「時知らず」「延命菊」などの別名もあります。

学名Bellis perennisの属名は「美しい」、種小名は「多年草」という意味です。

ヒナギクは欧米では一般に4月の花として知られており、イタリアでは国花となっています。

ヒナギクの原産地は欧州、コーカサス地方で、欧米では古くから身近に存在していたため、さまざまな物語が生まれています。ローマの伝説には「木の精ベリデスが森のはずれでいいなづけのエフィゲネスと踊っていると、そのかわいい姿を見た庭園の守護神ペルタムナスが彼女を追いかけた。ベリデスは執念深い追跡を逃れようとベリス(bellis)の花に変身してしまった」という物語があります。この中に登場する花bellisは、ヒナギクの学名の属名になっています。

日常生活の中では花びらを一枚ずつ取っていく恋占いや、祝い事の占いによく利用されてきました。また、ヒナギクの根を枕の下にして眠れば恋人の夢を見るという言い伝えや、この花の夢を春や夏に見れば「𠮷」、秋や冬に見れば「凶」という夢占いもあります。

イギリスではヒナギクが野原に雑草として繁殖しており、子ども時代から親しんでいるため、最期はヒナギクで墓を覆われて生涯を閉じるのを理想としている人も多いといわれています。

多くの文学者や詩人もヒナギクを作品の中に取り入れています。たとえば詩人のローウェルは「私を愛する、私を愛さぬ、天地以上に私を愛する。花びらの数が奇数と分かれば、目に嬉し涙をためただろう」(加藤憲市訳)という詩を詠んでいます。

日本には明治時代になってからヒナギクが紹介されました。花期が長くかわいらしいことから広く親しまれるようになりましたが、歴史が浅いため、欧米ほど文学や詩歌の対象になっていないようです。

真清水の たへなる調べ ききながら 咲きて散りける ひな菊の花

木下 利玄

雛菊や うららうららと 咲きにけり

久女

ヒナギクは国内では栽培が長くないため、ヨーロッパのような生活に結びついた風習や行事に使われることはあまりなく、花占いに使われている程度です。日本では薬用の使用例はありませんが、ヨーロッパでは古くから薬用に用いられてきました。葉をよくもみほぐしてから骨折した箇所に貼付すると効果があるとされ、「骨の花(Bone-flower)」と呼ばれています。また、葉を打傷に貼ると効果があるとされることから「傷草(Bruise-wort)」とも呼ばれています。このほかにも、痛風やリウマチの薬に使われたり、偏頭痛の薬としてヒナギクの葉や根の汁を鼻に垂らして用いられたりしてきました。花の部分は戦傷の止血に効果があるとも言われています。

花言葉は「乙女の無邪気心」です。

出典:牧幸男「植物楽趣」