養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 101
他の木に寄生して成長する「ヤドリギ」

腰痛や産後の止血に用いられた生薬

立春を過ぎると気温の上昇が始まります。しかし、葉を落とした木々は黒灰色の枝を空に伸ばしたまま、芽はまだ固い皮の中で静かに春を待っています。この時期に大木の枝先にヤドリギの若緑色の塊がよく目に付くようになります。林の中でヤドリギが寄生する木は限られており、1カ所に固まっているのが特徴です。

ヤドリギが寄生すると、時には宿主を枯らしてしまうこともありますが、通常は成長を阻害する程度にとどまります。

大部分のヤドリギは半寄生で、常緑の葉で光合成を行いますが、ミネラルの補給は宿主に依存します。

シベリアで繁殖し、日本で越冬する渡り鳥のキレンジャクは、ヤドリギの実を好んで食べます。しかし、種子は消化されず、そのままの形で排泄されます。その際、フンが糸を引くように落下します。種子の外側に粘液物質がついているので、枝にくっつきやすく、しばらくするとそこで発芽するのです。この現象について、江戸時代には小鳥のフンによって繁殖することは知られていましたが、鳥の種類までは分かっていませんでした。

ヤドリギ

ヤドリギは高い木の枝上に固着する常緑小低木で、成長すると葉は又状に分枝し、それぞれの上端に濃緑の細長い皮質の双葉をつけます。全体の大きさは60cm~1m程度で、早春に淡黄色の小さな花をつけ、花後に球形緑黄色の実を結びます。主に広葉樹(ケヤキ、クリ、エノキ、ミズナラ、ブナ、サクラなど)に寄生して成長します。

ヤドリギの種類は「大葉ヤドリギ」「穂咲ヤドリギ」「檜葉ヤドリギ」「西洋ヤドリギ」などが知られています。

木々の高い枝に寄生するその独特の姿から、昔は神が降りる場所と信じられていました。そのため、木に寄生するのではなく、「宿る木」と考えられ「保与」とも呼ばれていました。

北欧の伝説では、小木の西洋ヤドリギが大木を奴隷のようにして養分を吸収する姿から、その力を天の神々も恐れていると信じられていました。

不思議さを秘めた植物だけに、古くから詩歌の対象になりました。ただ、1年中同じような形態で季節感がはっきりしないためか、俳句にはほとんど登場しません。

あしひきの 山の木末(こぬれ)の保与(ほよ)取りて 挿頭(かざし)つらくは 千年寿(ちとせほ)くとぞ

大伴家持

植物学者の牧野富太郎氏は、「日本名は、寄生木、宿り木の意味で他の木に寄生して生活するからである。一名ホヤの意味は不明。トビズタはこの木をツタに例え、樹から樹に移って生えるからである。漢名は「冬青」、これはナナメノキの漢名でもある。檞寄生と言う中国名は実際にはない」と述べています。

別名は、寄生して成長するから「柏宿木」「寄生木」、ツタの姿に例えた「松蘿」、樹から樹に移って成長すると思われていたから「トビズタ(トビヅタ)」、古名の「保与」、寄生を意味する「ホヤ」「ホイ」などがあります。

学名はViscum albumで、属名は「とりもち」に由来する古語、種小名は白の意味で、果実の色と粘性から名付けられました。

薬用としては、茎葉が乾燥しにくいので、細かく刻んでから日干ししたものを煎じ、腰痛や産後の止血に用いられていました。

欧米では子孫繁栄を願うためにヤドリギをクリスマスによく飾ります。

花言葉は、「私は困難に耐える」「堅忍不抜」です。

出典:牧幸男「植物楽趣」