生薬ものしり事典
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- 【2020年6月号】別名が185もある「ツユクサ」
生薬ものしり辞典 93
別名が185もある「ツユクサ」
「鴨跖草(おうせきそう)」の名で知られる生薬
朝霧に濡れて咲く、ツユクサの鮮やかな青色は、黄色の飾り雄しべが引き立て役となり、野草の中でも美しい花のひとつに数えられています。
ツユクサは身近な環境に生育するツユクサ科の一年草で、東南アジア固有の植物です。夏に葉と対生して苞葉(ほうよう)に包まれていた総状花序が苞葉の外に出て、青色の花を開きます。花は内花被の側方の2枚が丸く大きいという特徴があります。
ツユクサは早朝に咲き始め、強い日光に当たるとしおれてしまう短命な一日花です。ただ、つぼみが苞葉に2~3個包まれており、それが次々に咲くため、2~3日咲いているように見えます。また、一見ひ弱そうですが、引き抜いて放っておくと、いつの間にか根を出し、容易に生き返る繁殖力の強さがあります。
花は咲く時だけ苞葉から顔を出して開き、しおれると苞葉の中に再び戻り、そこで果実が成長し、結実します。
ツユクサの変種はそれほど多くなく、野生の「ツユクサ」、大型で青花紙用に改良された「オオボウシバナ」、園芸種の「タマツユクサ」などがあります。
作家の徳富蘆花は『みみずのたはこと』で、「つゆ草を花と思うは誤りである。(中略)あれは色に出た露の精である」と記述しています。
花の青色は衣料に直接すりつけて染める色素として利用していました。ただ、この色素は光と水に弱いという欠点がありました。
『万葉集』(7~8世紀)には、「ツユクサ(ツキクサ)」の歌が9首収載されていますが、ツキクサで染めた衣の色が変わりやすいため、6首までが「移ろふ」の意味に用いられています。
また、清少納言は『枕草子』(11世紀)で「つき草、うつろひやすなるこそうたてあれ(ツユクサが色あせやすいのはいやなものだ)」と述べ、色の美しさに引かれつつ、退色しやすいことに困惑していた様子がわかります。
元禄時代になると、宮崎友禅はツユクサのすぐ脱色する性質を利用し、友禅染の下絵を描く絵の具に使うことを考えました。色素の調整は、朝のうちに摘んだ花びらを絞って青汁をとり、岐阜提灯に用いる用紙に塗って染み込ませてから乾かします。この手順を約100回繰り返してできるのが青花紙(単に青花ともいう)と呼ばれる紙となり、友禅の職人に渡ります。職人は青花紙を小さく切って水に溶かし、色素を取り出すことで、下絵を描く際に手軽に使えます。これによって友禅の技術が急速に発展したのです。
ツユクサは古くから日本人に好まれた植物で、先述の『万葉集』をはじめ、詩歌にもよく詠まれています。
よごれたる おどろがなかに 鴨跖草の 花かもさかむ 水ひきていなば
露草の 瑠璃をとばしむ 鎌試し
ツユクサの和名は多く、『日本植物方言集』(1972年)には、185の別名が収載されています。
「露草」は露を帯びた草の意、「青花」は花弁の色、「帽子花」はぴったりくっついた苞葉のさまに由来します。「搗き草」は古名で「着草」の意で、花で布を刷り染めしたことに由来します。「月草」と書くこともあります。漢名は「鴨跖草」であると牧野富太郎氏は述べています。
「着草」は『本草和名』や『和名類聚抄(和名抄)』(共に10世紀)にて、すでに登場しています。平賀源内は『物類品隲』(18世紀)で「鴨跖草、和名ツキクサ、又はツユクサ、又アオハナと言う」と述べています。
学名はCommelina communisで、属名はオランダの植物学者の名前、種小名は「普通」の意で、至る所に生育していることに由来します。
薬用としては生薬「鴨跖草(おうせきそう)」として知られ、日干しした全草を煎じて解熱や下痢止めに用いられます。
花言葉は「わずかな楽しみ」「尊敬」です。
出典:牧幸男「植物楽趣」