生薬ものしり事典
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- 【2019年8月号】夕闇で優雅に咲く花「ユウガオ」
生薬ものしり辞典 83
夕闇で優雅に咲く花「ユウガオ」
利尿や歯痛などに利用された生薬
8月の前半は真夏の太陽が容赦なく照りつけ、日中は暑さのために木々の緑も弱々しく見えます。しかし、夕暮れが迫って辺りが薄暗くなってくると、大形の白いユウガオの花が目立つようになります。淡く澄んだ香りを漂わせ、夕闇にほんのり浮かぶ姿はとても優雅です。
中河興一の小説『天の夕顔』の最後に、ユウガオが好きだった亡き恋人を思って夜空に花火を打ち上げる場面があります。花火が消える時、天にいるその人がユウガオを摘み取ったと思い、自らの喜びとするのが印象的です。
ユウガオはアフリカまたは熱帯アジア原産のウリ科の蔓性一年生植物です。葉、蔓、果のいずれも軟毛が生えており、夏の夕方、葉腋に直径5~10cmほどの大形の白色合弁花を開花させます。しかし、翌日午前中にはしぼんでしまう、はかない命の花です。
その花の美しさから、観賞用の園芸種が生まれています。よく混同される類似植物に、ユウガオの変種である瓢箪(ひょうたん)と瓢(ふくべ)があります。いずれも花の色が白で夕方に開花しますが、果実の形がユウガオは長細く、瓢箪はくびれがあり、瓢はやや平たい球形です。また、干瓢(かんぴょう)の材料にするのはユウガオと瓢で、瓢箪は使用できません。
ユウガオの名の付く植物の歴史を調べると、古代エジプトや紀元前の中国、ローマ時代にその名が使われていました。もっぱら瓶や容器に利用する栽培種だったことから、瓢箪か瓢の可能性が考えられます。
日本に渡来した時期については、『日本書紀』(720年)に瓢箪としての記録があります。『延喜式』(927年)には大和の産物に容器として登場しており、いずれも現在の食用のユウガオと違うようです。
ユウガオの花を観賞用に楽しむのは日本だけで、1000年頃からユウガオを観賞するようになったようです。その代表が『源氏物語』(1001年頃)で、「夕顔の巻」では薄幸の女性にユウガオの花を重ね合わせた様子が描かれました。また、『枕草子』(1001~1004年頃)でも取り上げられています。江戸時代には、花の観賞を兼ねて夕顔棚の下で涼をとるのが盛んになり、絵画や詩歌の題材にされるようになりました。
心あてに それかとぞ見る 白露の 光そへたる 夕顔の花
夕顔は 煮て食ぶるに すがすがし 口に噛めども 味さえもなし
夕顔の 花で洟(はな)かむ おばばかな
日本名のユウガオは、夕方に花咲くことから名づけられ、「夕顔」と書くことが多いです。漢名は「壺蘆」ですが、「扁蒲」を使うこともあります。別名に「乾瓢」「瓢」「夜顔」「黄昏草」などがあり、名前の由来は用法や花の咲く時間帯です。学名のAgenaria leucanthaですが、属名はその果形から瓶の意で、種小名は花の姿と果実の形態から白い花という意味です。
薬用としては、果実を利尿や清熱(せいねつ)、止渇(しかつ)などに、種子は歯痛に用います。
食用としては、そのまま料理に使ったり、細かく切って乾燥し、干瓢を作ったりします。
花言葉は「はかない恋」「夜の思い出」「魅惑の人」です。
出典:牧幸男「植物楽趣」