養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 78
2つの名を持つ植物「ツクシとスギナ」

解熱、咳止めに用いられた生薬

春といえば、文部省唱歌「春の小川」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか?

「春の小川はさらさら流る
 岸のすみれやれんげの花に
 にほひめでたく 色うつくしく
 咲けよ咲けよと ささやく如く」
(*オリジナル版 高野辰之作詞)

ツクシとスギナ

春が音や色、香りを運んでくるようなこの歌は、日本の春の原風景として定着しています。

植物は日が長くなり、気温が高くなると、春を忘れることなく枯草の中から新しい芽を出してくれます。ツクシは早春の道端や土手の枯草から最初に芽を出します。ツクシが枯れてカサカサになる頃、スギナが同じ地下茎から芽を出してきます。植物の形態としては、地下茎から二種の枝を地上に出しており、一方は胞子茎のツクシで、もう一方の栄養茎がスギナです。五十野惇作詞の童謡「つくし」の一節「ツクシ誰の子、スギナの子…」を思い起こす人もいると思いますが、2つの名前のうち、学問的に正しいのはスギナです。

スギナは原野の至る所や道端などに生えるトクサ科の多年生草本で、地下茎は長く地中を縦走して暗褐色をなし、節から地上茎を出します。栄養茎(スギナ)は高さ30~40㎝、胞子茎(ツクシ)は10~25㎝を生じます。スギナの根は深く、「地獄まで届く」ということわざ通り、庭にはびこるスギナの除去は大変ですが、土壌をアルカリ性(石灰を散布)にすると、生育が止まります。

ツクシの名前は、地上に突き出るように芽を出す姿から生まれました。「土頭菜」「土筆」「土筆菜」「筆の花」などと書き、「つくしんぼ」と呼ぶこともあります。いずれも形態や食用にすることから生まれた名前と思われます。中国名は「筆頭菜」です。

スギナの名前は、杉の葉に似ていて食用になることから「杉菜」となりました。松葉を接いだように見えることから「接ぎ松」「接続草」などの別名もあります。

学名はEquisetum arvenseで、属名はequus(馬)+saeta(刺毛)の意で、多数の細い枝を段々に輪生するスギナの形を馬の尾にたとえたものです。種小名は原野の意で、自生する植物という意味になります。英語では「Horse Tail(馬の尻尾)」といいます。

日本では古くから身近な植物であるにもかかわらず、あまり詩歌には詠まれてきませんでした。ツクシを詠ったものは、『夫木抄』(1225年)に掲載されている一首が最初とされています。江戸時代になって俳諧が盛んになると、ひなびた姿に興味を示すようになったのか、多くの人々が詩歌に詠むようになりました。

土筆生ふる 処にありやと 求めしに わが家のうらに かたまりて出ぬ

岡麓

つくづくし ここらに寺の 跡もあり

千代女

今までは 知らで杉菜の 喰い覚え

惟然

薬用には、地上部を日干しにした生薬を「問荊(もんけい)」といい、解熱、咳止め、利尿に用いられてきました。『本草拾遺』(1885年)には、問荊について「結気、瘤痛、上気、気急に煮汁を服す。…一名接続草という」と記載されています。土筆の胞子の粉は、切り傷に利用されてきました。

食用としては、スギナもツクシも江戸時代から料理の材料として用いられ、特にツクシは明治天皇の好物で、明治の中頃に新宿御苑で促成栽培をした記録が残っています。食感は柔らかく、濃厚な甘みがあり、土筆和えや佃煮、酢の物にします。

花言葉はスギナもツクシも同じで「向上心、意外、驚き、努力」です。

出典:牧幸男『植物楽趣』