養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 59
“優しく癒す”が花言葉の「ウツボグサ」

「夏枯草」の名で知られる古い生薬

夏は植物にとっていちばんの成長期なので、野も山も万緑に満たされます。しかし、そんな盛夏に背を向けるように枯れてしまうのが「ウツボグサ」です。

この植物はシソ科の多年草で、北半球の温帯に広く分布し、日本各地の日当たりのよい山野の草地によく見られます。高さ10~30cm、茎は四角形で、根のキワからむらがり生え、直立またはやや斜めに枝分かれします。茎、葉、花序には白く粗い毛が生えています。6~8月になると、茎の頂に長さ3~8cmの花穂が現れ、唇のような形をした紫色の花が密集してつきます。花穂の上から開花し、いちばん下に小花が咲くころには、上のほうは枯れ始めて茶褐色になっています。本格的な夏には、枯れて黒っぽくなったまま、花穂をいつまでも残しているのが特徴です。

ウツボグサ

なつかしき 春の形見か うつぼ草 夏の花かや 紫にして 与謝野晶子
切り拓き 明るき林 靭草 石昌子

詩歌にも読まれていますが、数はあまりないようです。「ウツボグサ」の名は、花穂の形が弓矢を束ねて入れる漆塗りの靭(うつぼ)に似ていることに由来します。花穂が松傘や虚無僧の笠に似ていることから「松傘草」「虚無僧草」の別名もあります。また、郭公(かっこう)の鳴くころから咲き始めるため、「郭公花」「郭公草」の名でも呼ばれます。

漢名は、夏に枯れることから「夏枯草(かごそう)」といいます。中国の最古の医学書『神農本草経』(250~280年ころ)にも「夏枯草」の名で収載されているので、非常に古い生薬といえるでしょう。水戸黄門こと徳川光圀が穂積甫庵(ほづみようあん)にまとめさせた『救民妙薬』(1693年)にも、「夏枯草、うつぼ草ともいう」と書かれています。

花穂が褐色になりかけのころ、地上部を採取して日干しにした生薬「夏枯草」は、漢方や和方の重要な薬として知られており、利尿や消炎、水腫などに用いられたようです。『救民単方』(1851年)には、淋病や口内炎、扁桃炎、結膜炎に利用すると記載されています。(※タテヤマウツボとミヤマウツボは薬用にしません)
学名はPrunella vulgarisで、花言葉は「優しく癒す」です。

出典:牧幸男『植物楽趣』