養命酒ライフスタイルマガジン

生薬ものしり事典

生薬ものしり辞典 10
江戸っ子に愛でられし夏の風物詩「ほおずき」

江戸っ子の夏の風物詩として知られる「ほおずき市」。ほおずきは古くから薬草として煎じて飲まれており、愛宕神社(東京・港区)の千日参りの縁日で売られていました。それが浅草寺(東京・台東区)にも伝わり、ついには江戸中に広がったようです。つやつやと輝くオレンジ色のほおずきの鉢が境内にずらりと並ぶほおずき市が各地に立つ頃には、梅雨も明け、いよいよ本格的な夏の到来です。

ほおずきはナス科ほおずき属の多年草で、6月末から7月にかけて黄色い花を開花させます。花が咲いた後、六角のがくの部分が袋状になって果実をふっくら包み込み、熟すとオレンジに色づきます。
今回は古来から生薬として利用されてきたほおずきの薬効や有効成分などについて、養命酒中央研究所の矢彦沢公利研究員が解説いたします。

玩具にもなる観賞用と、美容にもいい食用のほおずき

養命酒中央研究所
矢彦沢公利研究員

日本で一般的に「ほおずき」と呼ばれるものには、主に観賞用に扱われてきたものと、食用にされているものの2つがあります。
生薬に用いられるのは、観賞用のほおずきです。東アジア原産の多年草で、平安時代の頃から薬用に利用され、江戸時代には薬用だけでなく子供の玩具として盛んに愛用されたといわれています。生薬としては全草を酸漿(さんしょう)、根茎を酸漿根として扱われ、鎮咳、解熱、利尿作用があり、咳、発熱、のどの痛み、むくみなどに効き目があるとされています。

観賞用ほおずき
観賞用ほおずき

食用ほおずきのシロップ漬け
食用ほおずきのシロップ漬け

一方、食用ほおずきは、中南米が原産で、ヨーロッパでは古くから栽培されています。メキシコでは、同じく中南米生まれのトマトよりもずっと歴史が古い食べ物だそうです。日本での知名度が上がってきたのは最近のことで、「ストロベリートマト」として出回ったりしています。甘酸っぱく、まるで果物の食感で、特に女性に人気があり、デザートとして、また、ジャムやパウンドケーキ、アイスクリームなどにも加工されたりしています。

生薬としては使われない食用ほおずきですが、おいしいだけでなく、栄養価も高く健康と美容に効果のある食べ物として脚光を浴びています。
成分として、ビタミンA、ビタミンCやビタミンB群、カロテン、鉄分を豊富に含むだけでなく、イノシトールも豊富に含んでいます。イノシトールは、水溶性のビタミン様作用物質で、脂肪とコレステロールの流れをスムーズにする作用があり、脂肪肝や動脈硬化などの予防効果、神経機能を正常に保つ働きがあります。
また、最近の研究では、多糖類による抗酸化活性、ACE阻害による血圧降下作用、メラニン生成を抑制することによる美白効果、シワ・たるみの改善効果などがあることが報告されています。

ほおずきは漢字で「酸漿」や「鬼灯」と書かれますが、酸漿は生薬の名に由来し、鬼灯は火が煌々と灯った提灯に似ていることに由来します。英語でも提灯を意味するチャイニーズ・ランタンのイメージから「Chinese lantern plant」と呼ばれています。
お盆には、ほおずきの実を提灯に見立て、祖霊を迎える盆棚にほおずきがたわわになった枝を飾る風習がありますが、色づいたほおずきの実にはまさに辺りをぽっと明るく照らすような優しさがありますね。